2025.9.29
SaaSやサブスクリプションビジネスの成長戦略において、ユニットエコノミクスは事業の健全性と将来性を測る上で最も重要な指標の一つです。この指標を正しく理解し、常に健全な状態に保つことが、持続的な成長と企業価値向上の鍵を握ります。
しかし、多くの事業責任者や経営層の方々が、次のような課題に直面しているのではないでしょうか。
• 「ユニットエコノミクスが、具体的に何を意味し、どう計算すればいいのか分からない」
• 「LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)のバランスが適正なのか判断できない」
• 「自社のユニットエコノミクスが健全な水準(目安は3以上と言われるが)にあるのか自信がない」
• 「顧客ごとの契約条件や料金体系が複雑で、ユニットエコノミクスの算出に必要な正確なLTVやCACをリアルタイムで把握できていない」
本記事では、ユニットエコノミクスの基本的な概念から、心臓部であるLTVとCACを用いた具体的な計算式、事業の健全性を示す目安、そして収益性を飛躍的に高めるための改善戦略まで、網羅的に解説します。
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目次
ユニットエコノミクスとは?SaaSビジネスにおける重要性
ユニットエコノミクスの計算式
ユニットエコノミクスの目安は「3以上」
ユニットエコノミクスを改善する5つの戦略
複雑なKPI管理を自動化し、ユニットエコノミクス改善を加速する「Scalebase」
ユニットエコノミクス(Unit Economics)とは、その名の通り「1単位(ユニット)あたりの経済性・採算性」を測るための指標です。SaaSビジネスにおいては、この「ユニット」を顧客1人または1社(1アカウント)として捉えるのが一般的です。つまり、ユニットエコノミクスとは「顧客一人あたり、どれだけ儲かっているのか(あるいは損しているのか)」を明確に示す指標なのです。
従来の売り切り型ビジネスでは、商品が売れた時点でコストを回収し利益が確定するため、損益計算書(P/L)で事業の健全性を比較的容易に把握できました。
しかし、SaaSビジネスの多くはサブスクリプションモデルを採用しており、顧客を獲得した時点では開発費や営業・マーケティング費用といった先行投資を回収できず、顧客にサービスを継続利用してもらうことで初めて利益が生まれます。このビジネスモデルの特性上、短期的なP/Lだけでは事業の本質的な価値や将来性を正しく評価することが困難なのです。
そこでユニットエコノミクスが重要になります。この指標を用いることで、「顧客一人を獲得するために投じたコスト(CAC)を、その顧客が生涯でもたらす利益(LTV)で回収できているか」という、事業の根本的な健全性を評価できるのです。投資家もまた、企業の成長性や競争力を定量的に評価する上で、このユニットエコノミクスを最重要視します。
事業を評価する際に重要な指標として、限界利益があります。限界利益とは、売上高から変動費を引いた利益のことです。固定費が低く変動費が高いビジネスでは、早期に収益をあげられる反面、販売数量を増やしても利益を上げにくくなります。その反面、固定費が高く変動費が低いビジネスでは、初期費用はかかるものの一定以上の売上になった際に大きな収益を上げやすくなります。
ユニットエコノミクスと限界利益の両方を見ながら、ユーザー数を増やしていくと収益が伸びるビジネスモデルなのか、それともユーザー数が伸びなくても一定の収益を上げられるビジネスモデルなのかを冷静に判断することが重要です。
ユニットエコノミクスは、2つの重要な指標、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)を用いて計算されます。
ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC
この計算式を理解するため、まずは構成要素であるLTVとCACについて詳しく見ていきましょう。
LTV(Life Time Value)とは、一人の顧客が取引を開始してから終了するまでの全期間にわたって、自社にもたらす利益の総額を示す指標です。LTVが高いほど、一人の顧客から得られる収益が大きいことを意味します。
SaaSビジネスにおけるLTVの計算方法は複数ありますが、一般的には以下の式が用いられます。
LTV = ARPU(1ユーザーあたりの平均売上) ÷ チャーンレート(解約率)
より正確性を期すためには、売上ではなく粗利で計算することが推奨されます。
ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC
ARPU(Average Revenue Per User)は、1ユーザーあたりの平均的な月間収益です。チャーンレートは、一定期間内に顧客がサービスを解約する割合を指します。
CAC(Customer Acquisition Cost)とは、新規顧客を1人または1社獲得するために費やした全てのコストを指す指標です。
CAC = 顧客獲得のために費やした総費用 ÷ 新規顧客獲得数
「顧客獲得のために費やした総費用」には、広告宣伝費だけでなく、マーケティング・営業部門の人件費や代理店手数料、ツールの利用料など、新規顧客獲得に直接・間接的に関わる全ての費用が含まれます。
一般的に、SaaSビジネスにおいて健全とされるユニットエコノミクスの目安は「3以上」、つまりLTVがCACの3倍以上である状態だと言われています。
LTV/CAC比率 | 評価 | 状況と次のアクション |
---|---|---|
1未満 | 危険 | 顧客を獲得するたびに赤字が増加する状態。ビジネスモデルの抜本的な見直しが必要。 |
1~3未満 | 要注意 | 利益は出ているものの、CACの回収期間が長くキャッシュフローを圧迫する可能性がある。LTV向上かCAC削減の努力が必要。 |
3以上 | 健全 | 事業が健全に成長している状態。安定した収益基盤があり、さらなる投資を検討できる。 |
5以上 | (機会損失の可能性) | 非常に効率的だが、裏を返せば顧客獲得への投資が不足しており、より速い成長機会を逃している可能性がある。 |
この「3」という数字には、SaaSビジネスの持続可能性を示す2つの重要なKPIが関係しています。
1. CAC回収期間(Payback Period)が12ヶ月以内であること
2. 月間チャーンレート(解約率)が3%未満であること
これらの条件を満たすと、ユニットエコノミクス(LTV/CAC)の計算結果がおおよそ「3」に近づくため、この数値が健全性のベンチマークとして広く認識されています。
【参考記事】サブスクビジネスにおける損益分岐点の特徴と改善ポイントとは?
ユニットエコノミクスが目安の「3」を下回っている場合、早急な改善が必要です。改善のアプローチは、計算式の通り「LTVを上げる(分子を大きくする)」か「CACを下げる(分母を小さくする)」の2つに大別されます。
1. アップセル・クロスセルによる顧客単価(ARPU)の向上
既存顧客に対し、より高機能な上位プラン(アップセル)や関連サービス(クロスセル)を提案することで、顧客単価を引き上げます。新規顧客獲得よりも低コストで効率的に収益を伸ばせる施策です。
2. チャーンレート(解約率)の低減
カスタマーサクセスを強化し、顧客が製品価値を最大限に実感できるよう支援することで、解約を防ぎます。オンボーディングの最適化やプロアクティブなサポートが鍵となります。リテンションレート(顧客維持率)の向上は、LTVに直接的なプラスの影響を与えます。
3. 価格戦略の最適化
顧客が感じる価値(Value)に基づいて価格を設定する「バリューベースプライシング」などを検討し、価格体系を見直します。安易な割引はLTVを低下させるリスクがあるため注意が必要です。
4. 費用対効果の高いチャネルへの投資集中
広告、SEO、イベントなど、複数の顧客獲得チャネルごとのCACを分析し、最も効率的に顧客を獲得できているチャネルに予算やリソースを再配分します。
5. コンバージョン率(CVR)の向上
Webサイトやランディングページ(LP)を改善し、より少ない訪問者からより多くの顧客を獲得できるようにします。これにより、同じ広告費で獲得できる顧客数が増え、結果的にCACが低下します。
ユニットエコノミクスを正確に把握し改善していくことは、SaaSビジネスの成長に不可欠です。しかし、事業が成長し、料金体系が複雑化するにつれて、その算出は困難を極めます。
• 段階制や従量課金など、顧客ごとに異なる契約条件を手作業で管理している
• 契約情報がExcelや複数のシステムに散在し、正確なLTVやCACを算出するデータが統合できていない
• 重要指標の把握に手間と時間がかかり、迅速な経営判断ができない
このようなデータの分断や手作業による非効率な業務は、信頼できるKPIの算出を妨げ、データドリブンな意思決定の足かせとなります。これらの課題を解決し、ユニットエコノミクスの改善サイクルを加速させるのが、サブスクリプションビジネスの販売・請求管理システム「Scalebase」です。
「Scalebase」は、SaaSビジネス特有の複雑な契約・請求管理を一元化し、事業の重要指標を可視化することで、持続的な成長を支援します。
• 複雑な料金体系に標準対応
段階制や従量課金、日割り計算など、あらゆる料金モデルに柔軟に対応し、請求計算を自動化します。これにより、手作業によるミスを防ぎ、管理部門の工数を大幅に削減できます。
• 契約データの一元管理とKPIのリアルタイム可視化
契約情報から請求データまでを一元管理し、LTV、CAC、チャーンレートといった重要指標をダッシュボードでリアルタイムに可視化します。これにより、事業の健全性を常にモニタリングし、迅速な戦略的意思決定を支援します。
「Scalebase」を導入することで、煩雑な管理業務から解放され、常に正確なデータに基づいたユニットエコノミクスの分析が可能になります。より精度の高い戦略立案にリソースを集中させ、事業成長を加速させましょう。
ご興味のある方は、ぜひ以下の資料をご覧ください。⇒「Scalebase」の資料をダウンロードする
ユニットエコノミクスは、SaaSビジネスの収益性と成長性を測るための羅針盤となる指標です。LTVとCACの関係性を正しく理解し、「3以上」という健全性の目安を常に意識することが、持続的な成長には不可欠です。
本記事で紹介したユニットエコノミクス改善のための5つの戦略を参考に、自社の事業を見直し、データに基づいた最適化を進めてください。
SaaS・サブスクリプションのKPI一覧
・主要KPI一覧
・MRR(月次経常収益)
・ARR(年次経常収益)
・NRR(売上維持率)
・LTV(顧客生涯価値)
・ユニットエコノミクス(LTV/CAC)
・チャーンレート(解約率)
・CAC(顧客獲得単価)
・CAC Payback Period(CAC回収期間)
・ARPU(ユーザー1人あたりの平均売上高)
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