2025.9.25
SaaSやサブスクリプションビジネスの成長戦略において、CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)は、事業の健全性と将来性を測る上で最も重要な指標の一つです。このCACを正しく理解し、最適化することが、持続的な成長の鍵を握ります。
しかし、
• 「CACとCPAの違いが曖昧で、正しく使い分けられていない」
• 「自社のCACが適正な水準なのか判断できない」
• 「LTV(顧客生涯価値)とのバランスの取り方がわからない」
• 「従量課金や段階制など、複雑な料金体系で正確なCACが算出できていない」
といった課題を抱える事業責任者や経営層の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、SaaSビジネスに携わる皆様に向けて、CACの基本的な概念から、CPAとの明確な違い、LTVとの関係性、そして事業成長を加速させるための具体的な改善方法まで、網羅的に解説します。
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目次
CAC(顧客獲得コスト)とは?
CACの計算方法
CACの種類 なぜチャネル別に把握する必要があるのか?
SaaSビジネスにおける最重要指標「LTV/CAC比率(ユニットエコノミクス)」
CACを改善・削減するための5つの戦略
SaaSビジネスの収益管理を「Scalebase」で最適化し、CAC改善を加速
CAC(顧客獲得コスト)とは、その名の通り、新規顧客を1人または1社獲得するためにかかったコストの総額を指す指標です。具体的には、特定の期間におけるマーケティング費用や営業費用など、新規顧客獲得にかかった全てのコストを、その期間に獲得した新規顧客数で割ることで算出されます。
SaaSビジネスの多くは、顧客を獲得した時点では開発費や営業・マーケティング費用といった先行投資を回収できず、顧客にサービスを継続利用してもらうことで初めて利益が生まれるビジネスモデルです。
そのため、「顧客一人を獲得するためにいくらコストをかけたのか(CAC)」と「その顧客が生涯でどれだけの利益をもたらしてくれるのか(LTV)」のバランスを常に把握することが、事業の健全性を判断する上で不可欠となるのです。CACを正確に把握できていなければ、収益性を度外視して顧客獲得を進めてしまい、キャッシュフローが悪化するリスクがあります。
CACとよく混同される指標にCPA(Cost Per Action / Acquisition)があります。どちらも「顧客獲得単価」と訳されることがありますが、その意味と利用場面は明確に異なります。
項目 | CAC(顧客獲得コスト) | CPA(顧客獲得単価) |
---|---|---|
定義 | 1人の有料顧客を獲得するためにかかった全てのコスト | 1件のコンバージョン(CV)広告費用 |
対象費用 | 広告費、営業・マーケティング部門の人件費、代理店手数料、ツール利用料など、顧客獲得に関わる全ての費用 | 主にインターネット広告などの広告費用のみ |
目的 | 事業全体の収益性や健全性を評価する | 特定の広告キャンペーンなど、施策単位での費用対効果を測定する |
簡単に言えば、CPAは広告など個別のマーケティング施策の効果を測るための「ミクロ」な指標であるのに対し、CACは事業全体の顧客獲得効率を見るための「マクロ」な指標と言えます。SaaSビジネスの経営判断においては、両者を正しく使い分けることが重要です。
CACは以下の基本的な計算式で算出されます。
CAC = 顧客獲得のために費やした総費用 ÷ 新規顧客獲得数
「顧客獲得のために費やした総費用」には、以下のようなコストが含まれます。
•マーケティング費用
広告費、コンテンツ制作費、SEO対策費、イベント・セミナー開催費など
• 営業費用
営業部門やインサイドセールス部門の人件費(給与、賞与)、営業交通費、代理店への手数料など
• ツール費用
MA、SFA/CRM、分析ツールなどの利用料
• その他
間接費(オフィス賃料など)のうち、営業・マーケティング部門に関連する費用どこまでの費用を含めるかは企業によって異なりますが、より正確な事業判断のためには、新規顧客獲得に直接・間接的に関わる全てのコストを計上することが推奨されます。
より精度の高い戦略を立てるためには、CACを顧客の流入経路別に分解して分析することが不可欠です。これにより、どのチャネルが効率的に顧客を獲得できているかを特定し、予算配分を最適化できます。
• Paid CAC(ペイドCAC)
有料チャネル(Web広告、展示会など)経由で獲得した顧客の獲得コストです。マーケティング施策の直接的な費用対効果を測る際に重要となります。
• Organic CAC(オーガニックCAC):
非有料チャネル(自然検索、口コミ、SNSからの自然流入、既存顧客からの紹介など)経由で獲得した顧客の獲得コストです。広告費はかかりませんが、コンテンツ制作の人件費やSEO対策ツール費などがコストに含まれます。
• Blended CAC(ブレンデッドCAC):
上記2つを合わせた、事業全体の平均的な顧客獲得コストです。一般的に「CAC」という場合、これを指すことが多いです。
例えば、Paid CACが高騰している一方でOrganic CACが非常に低い場合、広告への投資を抑え、コンテンツマーケティングやSEOへの投資を強化するといった戦略判断が可能になります。
CAC単体でその良し悪しを判断することはできません。CACの妥当性を評価するために不可欠なのが、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)との関係性です。
LTVとは、一人の顧客が生涯にわたって自社にもたらす利益の総額を示す指標です。SaaSビジネスのように顧客と継続的な関係を築くモデルでは、LTVを最大化することが事業成長の鍵となります。
LTVの計算方法は複数ありますが、SaaSビジネスでは一般的に以下の式が用いられます。
LTV = ARPU(1ユーザーあたりの平均売上) ÷ チャーンレート(解約率)
※粗利率を考慮する場合は
LTV = (ARPU × 粗利率) ÷ チャーンレート
ユニットエコノミクスとは、顧客一人あたりの採算性を測る指標で、LTVをCACで割ることで算出されます。
ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC
この数値は、顧客獲得に投じたコストを、その顧客から得られる利益で回収できているかを示します。ユニットエコノミクスが1を下回る場合、顧客を獲得すればするほど赤字が膨らむ「不健全な状態」を意味します。
一般的に、SaaSビジネスにおいてはLTV/CAC比率が3以上であることが健全性の目安とされています。
LTV/CAC 比率 | 状態・解釈 |
---|---|
LTV/CAC < 1 | 赤字。事業モデルの抜本的な見直しが必要。 |
LTV/CAC = 1〜2 | 利益がほとんど出ていない。CACの回収に時間がかかり、キャッシュフローが悪化するリスクがある。 |
LTV/CAC ≧ 3 | 健全な状態。事業が成長軌道に乗っていると判断できる。 |
LTV/CAC > 4 | 非常に効率的であり、顧客獲得への投資をさらに強化し、事業成長を加速させる余地がある。 |
ユニットエコノミクスを健全な状態に保つためには、CACの改善が不可欠です。ここでは、SaaSビジネスで実践可能な5つの戦略を紹介します。
1. 費用対効果の高いチャネルへの投資集中
チャネル別のCACを分析し、最も効率的に顧客を獲得できているチャネルにマーケティング予算やリソースを再配分します。効果の低いチャネルへの投資は削減、または停止を検討しましょう。
2. コンバージョン率(CVR)の向上
Webサイトやランディングページ(LP)の改善、サインアッププロセスの簡略化などによってCVRを高めることで、同じ広告費でより多くの新規顧客を獲得でき、結果的にCACの削減につながります。
3. LTVの最大化によるCAC回収期間の短縮
CACの削減だけでなく、LTVを向上させることもユニットエコノミクスの改善に繋がります。アップセル・クロスセルを通して、既存顧客に対して上位プランや関連機能を提案し、顧客単価(ARPU)を引き上げる。カスタマーサクセスを強化し、顧客が製品価値を最大限に実感できるよう支援することで、解約を防ぎ、利用継続期間を延ばすなどがあたります。
4. マーケティング・営業プロセスの効率化
MA(マーケティングオートメーション)やSFA/CRMといったツールを活用し、リード育成や顧客管理、営業活動を自動化・効率化することで、人件費をはじめとするオペレーションコストを削減し、CACを改善します。
5. 紹介(リファラル)プログラムの活用
既存顧客に友人や知人を紹介してもらう仕組みを構築します。紹介経由の顧客はコンバージョン率が高く、CACを大幅に抑えることができる非常に効率的な獲得チャネルです。
CACを正確に把握し改善していくことは、SaaSビジネスの成長に不可欠です。しかし、多くのSaaS事業者が直面する課題があります。それは、事業の成長に伴う料金体系の複雑化です。
ユーザー数に応じた段階制プランや、使用量に応じた従量課金、さらにはそれらを組み合わせたハイブリッドな料金モデルなど、多様なプライシング戦略は顧客ニーズに応える一方で、契約・請求管理業務を複雑化させ、正確なデータ把握を困難にします。
• 「顧客ごとに異なる契約条件や割引を手作業で管理している」
• 「従量課金の計算が複雑で、毎月の請求作業に膨大な時間がかかっている」
• 「契約情報がスプレッドシートや複数のシステムに散在し、正確なMRRやLTVをリアルタイムで把握できない」
このような状態では、信頼できるデータに基づいたCACの算出やLTVの予測は困難となり、結果としてデータドリブンな意思決定の妨げとなります。そこでおすすめしたいのが、サブスクリプションビジネスの販売・請求管理システム「Scalebase」です。
「Scalebase」は、SaaS・サブスクリプションビジネス特有の複雑な契約・請求管理を一元化し、事業の重要指標を可視化することで、持続的な成長を支援します。
• 複雑な料金体系に標準対応
段階制や従量課金、複数プロダクトの組み合わせなど、あらゆる料金モデルに柔軟に対応し、請求計算を自動化します。これにより、請求業務の工数を大幅に削減し、ミスを防ぎます。
• 契約・請求データの一元管理
顧客情報から見積、契約、請求、売上管理まで、販売プロセスにおけるデータを一気通貫で管理。データの分断や属人化を防ぎ、常に正確な情報に基づいた分析を可能にします。
• 重要KPIのリアルタイム可視化
MRR/ARR、LTV、チャーンレートといった重要指標をダッシュボードでリアルタイムに可視化。事業の健全性を常にモニタリングし、迅速な意思決定を支援します。
「Scalebase」を導入することで、煩雑な手作業から解放され、正確なデータに基づいたCACの分析やLTVの予測が可能になります。これにより、より精度の高いマーケティング戦略やプライシング戦略の立案が可能となり、ユニットエコノミクスの改善、ひいては事業全体の成長を加速させることができます。
ご興味のある方は、ぜひ以下の資料をご覧ください。
CACは、SaaSビジネスの収益性と成長性を測るための羅針盤となる指標です。CPAとの違いを明確に理解し、LTVとのバランス(ユニットエコノミクス)を常に意識することが、持続的な成長には不可欠です。
本記事で紹介したCACの計算方法、種類、そして改善戦略を参考に、自社の顧客獲得プロセスを見直し、データに基づいた最適化を進めてください。
そして、その基盤となる正確なデータ管理とKPIの可視化には、「Scalebase」のような専門ツールの活用が強力な後押しとなります。複雑な収益管理を効率化し、より戦略的な活動にリソースを集中させることで、競合優位性を確立し、事業を次のステージへと導きましょう。
SaaS・サブスクリプションのKPI一覧
・主要KPI一覧
・MRR(月次経常収益)
・ARR(年次経常収益)
・NRR(売上維持率)
・LTV(顧客生涯価値)
・ユニットエコノミクス(LTV/CAC)
・チャーンレート(解約率)
・CAC(顧客獲得単価)
・CAC Payback Period(CAC回収期間)
・ARPU(ユーザー1人あたりの平均売上高)
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