2025.9.19

NRR(売上維持率)とは?SaaSの成長を測る重要KPIの計算式と改善策を徹底解説

SaaSビジネスにおいて、新規顧客の獲得と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「既存顧客からいかに継続的に収益を上げ、成長させていくか」という視点です。この事業の健全性と持続可能性を測る最重要KPI(重要業績評価指標)が、NRR(Net Revenue Retention / 売上維持率)です。

NRRが100%を超えると、たとえ新規顧客がいなくても事業が成長する「ネガティブチャーン」という理想的な状態を意味し、投資家からも高く評価されます。

本記事では、SaaS事業の責任者や経営層の方々に向けて、NRRの基本的な定義から、具体的な計算式、業界別の目安、そしてNRRを向上させるための戦略的アプローチまでを網羅的に解説します。


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目次
NRR(売上維持率) とは?
なぜNRRはSaaSビジネスで重要KPIなのか?
NRRの計算式と具体例
NRRの目安は?業界・顧客セグメント別の水準
NRRを改善するための4つのアプローチ
NRRと関連重要指標(ARR, MRR, GRR, CRR)との違い
複雑なSaaSのKPIを自動化・可視化する「Scalebase」


NRR(売上維持率) とは?

NRRとは「Net Revenue Retention」の略で、日本語では「売上維持率」や「売上継続率」と訳されます。

これは、ある特定の期間において、既存顧客から得られる収益(MRR/ARR)が、アップセルやクロスセルによる増加(Expansion)、およびダウングレードや解約による減少(Contraction/Churn)を含めて、どれだけ増減したかを示す指標です。

重要なのは、NRRの計算には新規顧客からの収益は含まれないという点です。これにより、純粋に既存顧客基盤の健全性やロイヤルティ、そして事業の持続的な成長力を測ることができます。




なぜNRRはSaaSビジネスで重要KPIなのか?

SaaSビジネスモデルにおいて、NRRが他の指標と比べても特に重要視されるのには、3つの明確な理由があります。

1. 事業の健全性と持続可能性を示すから

NRRは、新規顧客獲得に依存しない「自己成長力」を示します。特にNRRが100%を超える「ネガティブチャーン」を達成している場合、既存顧客からの収益拡大が解約による収益減少を上回っていることを意味し、たとえ新規顧客がゼロでも事業が成長し続けることを証明します。 これは、安定したキャッシュフロー予測を可能にし、事業の安定性を大きく高める要因となります。

2. 顧客満足度とプロダクト価値のバロメーターだから

高いNRRは、顧客がプロダクトに継続的に価値を感じ、さらに投資を拡大していることの何よりの証拠です。顧客がアップセルやクロスセルに応じてくれるのは、サービスに満足しているからです。 そのため、NRRはプロダクトマーケットフィット(PMF)が達成されているかを示す、信頼性の高い指標としても機能します。

3. 投資家からの評価に直結するから

ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家は、SaaS企業の価値を評価する際にNRRを極めて重視します。高いNRRは、効率的な成長モデルと強固な顧客基盤の証明となり、将来の収益予測の確度を高めるためです。 NRRが120%を超えるような企業は、指数関数的な成長ポテンシャルを持つと見なされ、資金調達において非常に有利な評価を得やすくなります。



NRRの計算式と具体例

NRRを正確に算出するためには、まずその構成要素であるMRR(月次経常収益)の種類を理解する必要があります。

NRR計算式の構成要素(4種類のMRR)

MRR(Monthly Recurring Revenue)は、毎月繰り返し得られる収益のことです。NRRの計算では、このMRRを以下の4つの要素に分解して考えます。

MRRの種類概要NRRへの影響
Expansion MRR既存顧客のアップグレードやオプション追加による増収分プラス
Downgrade MRR既存顧客のダウングレードによる減収分マイナス
Churn MRR既存顧客の解約によって失われた収益マイナス
New MRR新規顧客から得られた収益NRR計算には含めない


NRRの計算式

これらの要素を用いて、NRRは以下の計算式で算出されます。

NRR (%) = ( (月初のMRR + Expansion MRR) - (Downgrade MRR + Churn MRR) ) ÷ 月初のMRR × 100


よりシンプルな考え方として、以下の式も使われます。

NRR (%) = 当月末の既存顧客のMRR合計 ÷ 月初の既存顧客のMRR合計 × 100


具体的な計算例

あるSaaS企業の月初時点でのMRRが1,000万円だったとします。

• 月初のMRR:1,000万円
• Expansion MRR(アップセルなど):150万円
• Downgrade MRR(ダウングレード):30万円
• Churn MRR(解約):20万円
• New MRR(新規顧客):200万円(※NRR計算には含めない)

この場合のNRRは以下のようになります。

NRR = ( (1,000万円 + 150万円) - (30万円 + 20万円) ) ÷ 1,000万円 × 100 = 110%

この結果は、既存顧客だけで収益が10%成長したことを示しており、非常に健全な状態と言えます。


NRRの目安は?業界・顧客セグメント別の水準

NRRの健全性を示す一般的な目安は100%以上です。 米国の公開SaaS企業のデータによると、NRRの中央値は110%〜120%の範囲にあり、特に成長著しい企業では120%を超えることも珍しくありません。

ただし、この目安は顧客セグメントによって異なります。

顧客セグメントNRRの一般的なベンチマーク特徴
SMB(中小企業)90% 〜 110%Expansionの余地が限られ、チャーンしやすい傾向。
Mid-Market(中堅企業)100% 〜 120%組織内での利用拡大が見込める。
Enterprise(大企業)120% 〜 130%以上スイッチングコストが高く、アップセルの機会が豊富。


NRRを改善するための4つのアプローチ

NRRを向上させるには、計算式の各要素に対して戦略的にアプローチすることが不可欠です。

Expansion MRRを最大化する(アップセル/クロスセル促進)

顧客がサービスの価値を最大限に引き出し、成功体験を得られるよう支援することが、アップセルやクロスセルの基盤となります。

カスタマーサクセスの強化
顧客の成功に能動的に伴走し、オンボーディングの徹底や活用支援を行うことで、上位プランや追加機能の必要性を自然に喚起します。

価値に連動した料金体系の設計
顧客の事業成長(例:データ量、ユーザー数)と利用料金が連動する従量課金モデルなどを取り入れることで、顧客の成功が自社の収益増に直結する仕組みを構築できます。

Churn MRR(解約)を最小化する

顧客離れを防ぐことはNRR改善の最重要課題です。

解約原因の徹底分析:
解約した顧客へのアンケートやヒアリングを通じて、根本的な原因(機能不足、価格、サポート体制など)を特定し、プロダクトやサービスにフィードバックします。

オンボーディングの最適化
顧客が導入初期に価値を実感できない「Time to Value」の遅さが解約の主な原因です。チュートリアルや手厚いサポートで初期のつまずきを防ぎます。

エンゲージメントの向上
顧客コミュニティの運営や定期的なコミュニケーションを通じて、顧客との関係性を強化し、ロイヤルティを高めます。

Downgrade MRR(ダウングレード)を防ぐ

ダウングレードは、顧客が「支払っている価格に見合う価値を感じていない」という危険信号です。

利用状況のモニタリング
ログイン頻度の低下や主要機能の未利用など、活用度が低い顧客を早期に特定し、プロアクティブに支援を行います。

価格体系の見直し
 顧客のニーズと各プランの機能が見合っているか定期的に見直し、価値を感じやすいパッケージングを検討します。

NRR向上のための事業基盤を整備する

上記の施策を効果的に実行するには、正確なデータに基づいた意思決定が不可欠です。しかし、SaaSビジネス特有の複雑な契約(アップセル、ダウングレード、日割り計算、キャンペーン適用など)や多様な料金体系を手動(Excel/スプレッドシート)で管理するには限界があります。請求ミスやデータ不整合は、顧客満足度の低下やNRRの正確な把握を困難にします。


NRRと関連重要指標(ARR, MRR, GRR, CRR)との違い

NRRを正しく評価するためには、他の関連KPIとの違いを理解することが重要です。

指標対象単位目的・示すもの
NRR既存顧客%収益の質。既存顧客基盤の健全性、成長性
ARR/MRR全顧客金額収益の量。事業全体の売上規模
GRR既存顧客%収益の安定性。アップセルを含まない純粋な収益維持率
CRR既存顧客%顧客数の維持率。収益額の変動は考慮しない

これらの指標は互いに補完関係にあり、総合的に分析することで、事業の状態を多角的に把握できます。


複雑なSaaSのKPIを自動化・可視化する「Scalebase」

NRRを正確に計算し、戦略的に改善していく上で、多くのSaaS企業が契約・請求管理の複雑さという課題に直面します。 サブスクリプションビジネスのための販売管理システム「Scalebase」は、NRRをはじめとする重要KPIの管理と改善を強力に支援します。

正確なKPIのリアルタイム可視化
ダッシュボード機能により、ARR、MRR、チャーンレート、LTVなどの重要指標をリアルタイムで正確に把握できます。Excelでの手集計によるタイムラグやミスを防ぎ、迅速な経営判断を可能にします。

複雑な契約・請求管理の一元化
アップセルやダウングレード、オプション追加といった契約の変更履歴をタイムラインで正確に一元管理。顧客ごとに異なる契約条件や日割り、キャンペーン適用などにも柔軟に対応し、請求ミスを防ぎます。

多様な料金体系への柔軟な対応
ID数に応じた段階型従量課金や、使用量に応じた従量課金など、SaaSビジネス特有の複雑な料金体系を標準機能で設定・自動計算できます。これにより、Expansion MRRを正確に算出し、NRRの信頼性を高めます。

データドリブンな戦略実行を支援
Scalebaseに蓄積された正確な契約・請求データを分析することで、顧客セグメントごとのNRRや解約傾向を把握し、データに基づいた改善施策の立案・実行をサポートします。

NTT東日本様をはじめ、300社を超える企業が「Scalebase」を導入することで、複雑な契約・請求管理業務を自動化・効率化し、NRRの改善につながる戦略的な事業運営を実現しています。



まとめ

NRRは、SaaSビジネスの持続的な成長を測る上で最も重要な指標です。NRRが100%を超えている状態は、既存顧客だけで事業が成長していることを意味し、強固なビジネスモデルの証となります。

NRRを改善するためには、顧客の成功を支援する「カスタマーサクセス」の視点を持ち、アップセルの促進と解約の防止に全社で取り組むことが不可欠です。そして、その活動の基盤となるのが、正確なデータに基づいた現状把握です。

手動での管理に限界を感じている、よりデータドリブンな経営判断を行いたいとお考えの事業責任者様は、ぜひ「Scalebase」のような専門システムの活用をご検討ください。


SaaS・サブスクリプションのKPI一覧

・主要KPI一覧
・MRR(月次経常収益)
・ARR(年次経常収益)
・NRR(売上維持率)
・LTV(顧客生涯価値)
・ユニットエコノミクス(LTV/CAC)
・チャーンレート(解約率)
・CAC(顧客獲得単価)
・CAC Payback Period(CAC回収期間)
・ARPU(ユーザー1人あたりの平均売上高)


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