2025.9.29

MRRを“見る”から“使う”指標へ。事業成長をドライブするデータ経営とは

SaaSビジネスにおいて、MRR(月次経常収益)は重要指標ですが、多くの企業がMRRを単なる「過去の実績」として眺めるだけで、未来の成長に向けた「戦略的な武器」として使いこなせていないのが現状です。

MRRの数値を追うだけでは、なぜ成長が加速し、あるいは鈍化したのかという根本原因は見えてきません。事業を非連続に成長させるためには、MRRを構成する要素を解像度高く分解し、その変動要因から次なる一手、すなわちデータドリブンな戦略を導き出すことが不可欠です。

本記事では、MRRを単なる指標から「事業成長の羅針盤」へと昇華させるための思考法と具体的なアプローチを解説します。


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目次
MRRとは?
MRRの分解:事業の成長エンジンとブレーキを特定する
MRRから読み解く「成長の質」:関連KPIとの連動
4つのMRRを動かす戦略
MRRから始めるデータ経営の実践
なぜMRR管理は複雑化し、事業のボトルネックになるのか
MRRを成長ドライバーに変える「Scalebase」


MRRとは?

MRR(Monthly Recurring Revenue)とは、月次経常収益、つまり毎月決まって得られる収益のことです。重要なのは、初期費用や追加購入費といった一時的な収益(スポット収益)を含まない点です。これにより、事業の安定した収益力と将来の予測可能性を正確に測ることができます。

多くの経営者はMRRを売上高と混同しがちですが、両者は明確に異なります。売上高が過去の実績を示す「結果」であるのに対し、MRRは将来の収益を予測する「先行指標」です。MRRは単なる「月次収益」ではなく、この予測可能性こそが、投資家が企業価値を評価する(バリュエーション)際にMRRを最重要視する理由です。



MRRの分解:事業の成長エンジンとブレーキを特定する

MRRの数値をただ眺めていても、具体的なアクションにはつながりません。重要なのは、その数値を構成する4つの要素に分解し、それぞれが事業の成長にどう貢献し、あるいは何を阻害しているのかを突き止めることです。


MRRの種類概要事業における意味
New MRR
(新規MRR)
新規顧客から新たに得られた月次経常収益。成長のエンジン。マーケティングや営業活動の成果を直接示す。
Expansion MRR
(拡大MRR)
既存顧客の上位プランへの変更(アップセル)やオプション追加(クロスセル)によって増加した収益。成長の加速装置。顧客満足度とLTV(顧客生涯価値)向上の鍵。
Downgrade MRR
(減少MRR)
既存顧客が下位プランへ変更したことで減少した収益。成長のブレーキ。製品価値と価格のミスマッチや、機能の未活用を示唆。
Churn MRR
(解約MRR)
既存顧客の解約によって失われた収益。致命的な収益漏れ。製品・サポート・顧客関係における根本的な問題を示唆。


当月のMRRは、以下の計算式で正確に算出されます。

当月のMRR = 前月のMRR + (New MRR + Expansion MRR - Downgrade MRR - Churn MRR)


この4つの要素を個別に分析することで、「新規獲得は順調だが、解約率も高い」「既存顧客のアップセルが進んでいない」といった事業の具体的な課題が浮き彫りになります。



MRRから読み解く「成長の質」:関連KPIとの連動

MRRは単独で見るのではなく、他の重要KPIと連動させることで、事業の「成長の質」を多角的に評価できます。

NRR(売上継続率)
既存顧客からの収益が、アップセルやクロスセルによってどれだけ成長したかを示す指標です。NRRが100%を超えている場合、新規顧客を獲得しなくても既存顧客だけで事業が成長していることを意味し、極めて健全な状態とされます。これは顧客満足度の高さとビジネスモデルの強靭性を示す強力な証明です。

LTV/CAC(ユニットエコノミクス)
LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)の比率で、顧客一人当たりの採算性を示します。一般的にLTV/CACが3以上であれば、事業が健全な状態とされています。この指標により、マーケティングや営業への投資が将来の利益に繋がっているかを判断できます。

SaaS Quick Ratio
MRRの増加分(New MRR + Expansion MRR)を減少分(Downgrade MRR + Churn MRR)で割った指標で、成長の効率性を示します。一般的に4以上であれば、事業が効率的に成長していると評価されます。


これらの指標を組み合わせることで、「MRRは伸びているが、獲得コストが高騰し採算が悪化している」「新規獲得は鈍化したが、既存顧客からの収益が安定しNRRは高い」といった、より深い洞察を得ることが可能です。


4つのMRRを動かす戦略

各MRRの数値を改善し、事業全体の成長を加速させるためには、それぞれの要素に特化した戦略が不可欠です。

・New MRRを増やす(新規顧客の獲得)

・ターゲットの明確化とチャネル最適化
LTVが高い顧客セグメントを特定し、費用対効果の高いチャネルにマーケティング予算を集中投下します。

・コンバージョン率(CVR)の改善
無料トライアルやフリーミアムモデルを活用し、導入のハードルを下げ、有料プランへの転換を促します。

Expansion MRRを増やす(アップセル・クロスセル)

・カスタマーサクセスの強化
顧客が製品価値を最大限に実感できるよう能動的に支援し、成功体験を創出します。これが自然なアップセルの土壌となります。

・価値ベースの価格戦略
顧客の成長や利用状況に応じてアップグレードが発生しやすい料金体系(例:段階制、機能ベース)を設計します。

・Downgrade/Churn MRRを減らす(解約・ダウングレード防止)

・オンボーディングの最適化
導入初期の顧客がスムーズに製品を使いこなせるよう支援し、早期離脱(初期チャーン)を防ぎます。

・解約予兆の検知とプロアクティブな対応
利用頻度の低下など、解約の兆候を示すデータをモニタリングし、問題が深刻化する前に先回りしてサポートを提供します。

・顧客フィードバックの製品への反映
解約理由や顧客からの要望を収集・分析し、プロダクト改善のサイクルを回すことで、根本的な解約原因を解消します。


MRRから始めるデータ経営の実践

データ経営では、MRRを含む各種KPIを単にモニタリングするだけでなく、具体的な事業施策に結びつけ、その結果を再びデータで評価するサイクルを回すことです。請求業務で蓄積された顧客の契約・請求・売上データは、事業成長のヒントの宝庫です。例えば、以下のような問いにデータで答えられる体制が理想です。

どの料金プランが最もExpansion MRRを生み出しているか?
→ 価格改定や新プラン設計のインプットに。

解約率が高い顧客セグメントはどこか?
→ ターゲット顧客の見直しや、特定セグメント向けの機能開発の検討に。

アップセルする顧客に共通する機能の利用パターンは何か?
→ カスタマーサクセスが注力すべきポイントの特定に。


なぜMRR管理は複雑化し、事業のボトルネックになるのか

事業が成長するにつれて、多くの企業がMRRの正確な管理という壁に直面します。Excelやスプレッドシートによる手作業での管理は、やがて限界を迎え、事業成長のブレーキとなり得ます。

料金体系の複雑化
ユーザー数に応じた課金だけでなく、利用量に応じた従量課金や段階制料金、特定の機能追加オプションなど、料金体系が多様化すると手計算は困難を極めます。

契約変更の頻発
アップグレード、ダウングレード、キャンペーン適用といった契約内容の変更が頻繁に発生すると、変更履歴の管理が煩雑になり、請求ミスや計上漏れのリスクが増大します。

データの分断
見積、契約、請求、収益認識といった各業務プロセスが分断されていると、データ連携が手作業となり、ミスやタイムラグが発生します。

KPI把握の遅れ
手作業での集計では、MRRや解約率といった重要指標をリアルタイムに把握できず、経営判断の遅れにつながります。

これらの課題は、バックオフィスの業務負荷を増大させるだけでなく、顧客満足度の低下や機会損失といった経営レベルの問題に直結するのです。



MRRを成長ドライバーに変える「Scalebase」という選択肢

MRR管理の課題を根本から解決し、データを事業成長のドライバーへと転換するのが、サブスクリプションビジネスの販売・請求管理システム「Scalebase」です。「Scalebase」は、見積から契約、請求、そしてMRRをはじめとする重要指標の可視化まで、一連の販売・収益プロセスを一気通貫で管理します。

複雑な料金モデルへの標準対応
段階型課金や従量課金、日割り計算、顧客ごとの割引など、手作業では管理が困難な料金計算を自動化します。これにより、新たな料金プランの迅速な市場投入も可能になります。

契約ライフサイクルの正確な管理
新規契約からアップセル、解約に至るまでの契約履歴をタイムラインで正確に管理。これにより、請求ミスを防ぎ、正確な収益予測を支援します。

リアルタイムなKPI分析
MRR/ARR、解約率、NRR、LTVといった重要指標をダッシュボードでリアルタイムに可視化。これにより、Excelでの煩雑な集計作業から解放され、データに基づいた迅速な意思決定が可能になります。

事業成功への伴走
システムの提供だけでなく、専任のコンサルタントが導入から運用までを支援。貴社のビジネスモデルに合わせた最適なオペレーション構築を伴走します。

NTT東日本様やTOPPANデジタル様をはじめとする多くの企業が、「Scalebase」を導入することで属人化した管理体制から脱却し、事業成長を加速させています。



MRRなどの事業指標を可視化!サブスク管理の「Scalebase」

MRRは、単に事業の健康状態を測るための指標ではありません。それは、事業成長のボトルネックと機会を明らかにし、次の一手を導き出すための戦略的ツールです。しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、Excelによる手作業管理の限界を認識し、データが分断されることなく一元管理され、リアルタイムで分析できる基盤を構築することが不可欠です。

「Scalebase」のようなシステムは、複雑な契約・請求業務を自動化し、正確なMRR管理を実現することで、経営者や事業責任者を煩雑な手作業から解放します。そして、データに基づいた戦略的意思決定に集中できる環境を提供することで、持続的な事業成長を強力に支援します。


SaaS・サブスクリプションのKPI一覧

・主要KPI一覧
・MRR(月次経常収益)
・ARR(年次経常収益)
・NRR(売上維持率)
・LTV(顧客生涯価値)
・LTV/CAC(ユニットエコノミクス)
・チャーンレート(解約率)
・CAC(顧客獲得単価)
・CAC Payback Period(CAC回収期間)
・ARPU(ユーザー1人あたりの平均売上高)


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