2025.9.25

ARR(年間経常収益)とは?MRRとの違い、計算方法から改善策まで

SaaSやサブスクリプションビジネスが主流となる現代において、事業の成長性や健全性を正確に測ることは、経営における最重要課題です 。その中心となる指標がARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)です。ARRを正しく理解し、継続的に成長させることが、企業の持続的な成長、ひいては企業価値評価(バリュエーション)の向上に直結します 。

しかし、以下のような課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。

「ARRとMRRの違いが曖昧で、自社ではどちらを重視すべきかわからない」
「ARRの正確な計算方法、特にアップセルやダウングレードをどう反映させるべきか悩んでいる」
「ARRの成長率をどのように評価し、次の戦略に活かせばよいか分からない」
「顧客ごとの多様な契約や複雑な料金体系のため、ExcelでのARR管理に限界を感じている」

本記事では、SaaSビジネスに携わる皆様に向けて、ARRの基本的な概念から、MRRとの明確な違い、その重要性、そして事業成長を加速させるための具体的な計算方法と改善策までを、網羅的に解説します。


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目次
ARR(年間経常収益)とは?
なぜSaaSビジネスでARRが重要なのか?
ARRとMRRの明確な違い
ARRの計算方法
ARRを向上させるための3つの戦略
ARR管理を自動化し、事業成長を加速させる「Scalebase」


ARR(年間経常収益)とは?

ARRとは「Annual Recurring Revenue」の略で、日本語では「年間経常収益」や「年間定期収益」と訳されます 。これは、毎年決まって得られる収益、つまり1年分の継続的な収益を示す指標です 。

重要なのは、ARRには初期導入費用やコンサルティング料、追加の購入費用といった一時的に発生する収益は含まれないという点です。あくまで、サブスクリプション契約に基づき、来期以降も継続的に見込める収益のみを対象とします。


なぜSaaSビジネスでARRが重要なのか?

SaaSビジネスは、顧客にサービスを継続利用してもらうことで収益を積み上げていくモデルです 。そのため、現時点での売上高だけでなく、将来にわたってどれだけの収益が安定的に見込めるかを把握することが極めて重要になります 。
ARRをモニタリングすることで、企業は以下のようなことが可能になります。

・事業の成長性の評価
前年と比較してARRがどれだけ成長しているかを見ることで、ビジネスが健全に拡大しているかを客観的に評価できます 。

・将来の収益予測
ARRは安定した収益のベースラインとなるため、より精度の高い財務計画や予算策定が可能になります 。

・企業価値評価(バリュエーション)
投資家は、SaaS企業の価値を評価する際にARRとその成長率を最重要視します 。安定したARRは、企業の魅力と将来性を示す強力な証明となります 。



ARRとMRRの明確な違い

ARRと非常によく似た指標にMRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)があります 。どちらも事業の継続的な収益を示す重要なKPIですが、その違いを正確に理解し、使い分けることが重要です。

項目ARR(年間経常収益)MRR(月次経常収益)
定義毎年決まって得られる1年分の経常収益毎月決まって得られる1ヶ月分の経常収益
計算式MRR × 12月額利用料 × 顧客数(基本)
主な用途長期的な事業計画、財務予測、企業価値評価短期的な成長トレンドの把握、マーケティング施策の効果測定
重視されるビジネスBtoBなど年間契約が中心のビジネスBtoCなど月単位の契約・解約が多いビジネス

簡単に言えば、MRRが短期的な事業の勢いを測る「速度計」だとすれば、ARRは中長期的な事業の方向性と規模を示す「航海図」のようなものです。両方の指標を適切に使い分けることで、より多角的な経営判断が可能になります 。




ARRの計算方法

ARRの計算はシンプルですが、その元となるMRRを正確に算出することが不可欠です。

基本的な計算式

ARRは、MRRを12倍することで算出されます 。

ARR = MRR × 12

したがって、正確なARRを求めるには、まず正確なMRRを計算する必要があります 。


ARRの成長を支える4つのMRR

MRRは、単に「月額利用料 × 顧客数」だけでは事業の実態を正確に反映できません 。SaaSビジネスの成長を正確に把握するためには、MRRを以下の4つの要素に分解して理解することが重要です 。

指標概要
New MRR(新規MRR)その月に新規顧客から得られたMRR。マーケティングや営業活動の成果を直接示す指標です。
Expansion MRR(拡大MRR)既存顧客が上位プランへ移行(アップセル)したり、オプションを追加(クロスセル)したりすることで前月から増加したMRR。顧客満足度やロイヤルティの高さを示します。
Downgrade MRR(減少MRR)既存顧客が下位プランへ移行(ダウングレード)したことで前月から減少したMRR。顧客の不満やサービス価値のミスマッチを示唆する可能性があります。
Churn MRR(解約MRR)既存顧客がサービスを解約したことで失われたMRR。事業の健全性に最も大きな影響を与える指標の一つです。

MRRの計算式とARRの算出例

上記の4つの要素を踏まえると、当月のMRRは以下の計算式で求められます 。

当月のMRR = 前月のMRR + New MRR + Expansion MRR - Downgrade MRR - Churn MRR

【計算例】

• 前月のMRR:5,000万円
• New MRR:+200万円
• Expansion MRR:+50万円
• Downgrade MRR:-30万円
• Churn MRR:-120万円

この場合、当月のMRRは 5,000万円 + 200万円 + 50万円 - 30万円 - 120万円 = 5,100万円 となります 。

そして、このMRRを基にARRを算出すると、 ARR = 5,100万円 × 12ヶ月 = 6億1,200万円 となります 。 このように各要素を分解して追跡することで、ARR成長の要因が新規獲得によるものなのか、既存顧客の満足度向上によるものなのかを具体的に分析できます 。



ARRを向上させるための3つの戦略

ARRを成長させることは、事業成長そのものです。ARRを向上させるには、その構成要素である4つのMRRを改善することが不可欠です 。

1. 新規顧客の獲得を増やす (New ARRの最大化)

新規顧客の獲得は、ARR成長の最も直接的なドライバーです 。特に事業の成長段階においては、新規顧客獲得への注力が効果的です 。

▪ 効果的なマーケティングチャネルへの投資集中
▪ WebサイトやLPのコンバージョン率(CVR)改善
▪ 無料トライアルやフリーミアムモデルの活用

2. 既存顧客からの収益を拡大する (Expansion ARRの最大化)

新規顧客の獲得には高いコストがかかりますが、既存顧客へのアップセルやクロスセルは、より低コストで効率的に収益を向上させる方法です

▪ カスタマーサクセスの強化による顧客満足度とロイヤルティの向上
▪ 顧客の利用状況を分析し、最適なタイミングで上位プランや追加機能を提案する
▪ 顧客の成長に合わせて価値を提供する柔軟な料金体系の設計

3. 解約・ダウングレードを防ぐ (Churn ARR / Downgrade ARRの最小化) 

どれだけ新規顧客を獲得しても、解約率が高ければARRは伸び悩みます 。解約やダウングレードを防ぐことは、安定した事業基盤を築く上で最も重要です 。

▪ 顧客が製品価値を最大限に実感できるようなオンボーディングプロセスの構築
▪ 解約の予兆(ログイン頻度の低下など)をデータで検知し、プロアクティブにフォローする体制の構築
▪ 顧客からのフィードバックを収集し、サービス改善に迅速に反映させる


ARR管理を自動化し、事業成長を加速させる「Scalebase」

SaaSビジネスは、事業成長するにつれて、料金体系は顧客ニーズに応えるために複雑化していきます 。段階制料金、従量課金、顧客ごとの割引、頻繁なプラン変更など、これらの要素を手作業(Excelやスプレッドシート)で管理し、正確なARRをリアルタイムで把握することは極めて困難です 。

このような手作業による管理は、以下のような経営レベルの課題を引き起こします 。

• 請求ミスや計上漏れのリスク増大
• データの分断による不正確なKPI把握
• リアルタイムな経営状況の把握ができず、意思決定が遅れる


これらの課題を解決し、データに基づいた迅速な意思決定を実現するのが、サブスクリプションビジネスの販売・請求管理システム「Scalebase」です 。「Scalebase」は、SaaSビジネス特有の複雑な契約・請求管理を一元化し、ARRをはじめとする重要指標を可視化することで、持続的な成長を支援します 。

複雑な料金体系に標準対応
段階制や従量課金、日割り計算など、あらゆる料金モデルに柔軟に対応し、請求計算を自動化します 。これにより、手作業によるミスを防ぎ、管理部門の工数を大幅に削減できます 。

契約・請求データの一元管理
見積から契約、請求、売上管理まで、販売プロセスにおけるデータを一気通貫で管理 。契約内容の変更履歴もタイムラインで正確に把握でき、いつでも信頼できるデータにアクセスできます 。

重要KPIのリアルタイム可視化
ARR/MRR、チャーンレート、LTVといった重要指標をダッシュボードでリアルタイムに可視化 。事業の健全性を常にモニタリングし、迅速な戦略的意思決定を支援します 。

「Scalebase」を導入することで、煩雑な管理業務から解放され、正確なデータに基づいたARRの分析や予測精度向上が可能になります 。これにより、より戦略的な活動にリソースを集中させ、事業成長を加速させることができます。

ご興味のある方は、ぜひ以下の資料をご覧ください。⇒「Scalebase」の資料をダウンロードする



まとめ

ARRは、SaaSビジネスの成長性、将来性、そして企業価値を示す羅針盤となる最重要指標です 。MRRとの違いを明確に理解し、その構成要素である「新規」「拡大」「減少」「解約」の4つの側面から自社の事業を分析することが、持続的な成長の鍵となります 。

本記事で紹介したARR向上のための戦略を参考に、データに基づいた施策を実行し、事業の成長を加速させてください。そして、その基盤となる正確なデータ管理とKPIの可視化には、「Scalebase」のような専門ツールの活用が強力な後押しとなります 。


SaaS・サブスクリプションのKPI一覧

・主要KPI一覧
・MRR(月次経常収益)
・ARR(年次経常収益)
・NRR(売上維持率)
・LTV(顧客生涯価値)
・ユニットエコノミクス(LTV/CAC)
・チャーンレート(解約率)
・CAC(顧客獲得単価)
・CAC Payback Period(CAC回収期間)
・ARPU(ユーザー1人あたりの平均売上高)

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