2025.9.25

なぜ顧客は解約するのか?チャーン分析から始めるSaaSの解約防止策

SaaSやサブスクリプションビジネスにおいて、安定した収益成長を実現する上で避けて通れない課題が「チャーン(顧客の解約)」です。新規顧客の獲得に成功しても、既存顧客が次々と離脱してしまっては、事業は「穴の空いたバケツ」のように成長が鈍化してしまいます。この深刻な問題を解決する第一歩が「チャーン分析(解約分析)」です。チャーン分析とは、データを用いて顧客がなぜ、いつ、どのようにサービスを解約するのかを特定し、その根本原因を突き止めるプロセスです。

本記事では、チャーンの基本的な概念から、ビジネスの健全性を正確に測るための各種チャーンレートの計算方法、そして分析結果を具体的なチャーン防止(解約防止)施策に繋げるための戦略までを網羅的に解説します。


BtoB向け継続課金サービスの事業を成功させるためには、チャーン分析以外にも、いくつか押さえるべきポイントがあります。成功のポイントを詳しく知りたい方は「BtoB継続課金ビジネスを成功に導く販売・請求管理」をお読みください。


目次
なぜチャーン分析がSaaSビジネスで最重要なのか
チャーンレート(解約率)の種類と正しい計算方法
チャーン分析の具体的な進め方
解約を防止するための5つの戦略
チャーン分析と解約防止を加速させる「Scalebase」の活用


なぜチャーン分析がSaaSビジネスで最重要なのか

チャーンレート(解約率)は、単に顧客が離れた割合を示す数字ではありません。それは事業の健全性、顧客満足度、そして将来の成長可能性を映し出す「鏡」です。チャーンレートの上昇が経営に与える影響は深刻です。

・収益の減少と成長の鈍化
顧客の解約は、MRR(月次経常収益)やARR(年間経常収益)といった継続的な収益基盤を直接的に蝕みます。解約率が高い状態では、新規顧客獲得の努力が既存顧客の損失を埋めるだけで終わり、実質的な成長が停滞します。

・顧客獲得コスト(CAC)の増大
一般的に、新規顧客の獲得コストは既存顧客を維持するコストの5倍以上かかると言われています。高いチャーンレートは、このコスト構造をさらに悪化させ、利益率を圧迫します。

・ブランドイメージの低下
サービスへの不満が原因の解約は、口コミなどを通じてブランドイメージを損なうリスクがあります。

・投資家からの評価への影響
ARRやチャーンレートは、投資家が企業の健全性や成長性を評価する際の重要な判断材料となります。高いチャーンレートは、事業の持続可能性への懸念材料と見なされる可能性があります。


これらの理由から、チャーンを管理し、チャーンリスクを低減することは、SaaSビジネスの持続的成長における優先課題なのです。



チャーンレート(解約率)の種類と正しい計算方法

効果的なチャーン分析を行うには、まず自社の状況を正確に把握するための指標を正しく理解する必要があります。チャーンレートは、何を基準に算出するかで大きく2種類に分けられます。

1. カスタマーチャーンレート(顧客数ベース)

カスタマーチャーンレートは、一定期間内に解約した顧客数の割合を示す、最も基本的な指標です。BtoCサービスや、顧客ごとの契約金額に大きな差がないビジネスモデルで特に有効です。

<計算式>
カスタマーチャーンレート (%) = (期間中に解約した顧客数 ÷ 期間開始時の総顧客数) × 100

例えば、月初に1,000人の顧客がいて、その月に50人が解約した場合、カスタマーチャーンレートは5%となります。


2. レベニューチャーンレート(収益ベース)

レベニューチャーンレートは、解約によって失われた収益の割合を示す指標です。複数の料金プランが存在し、顧客単価が異なるSaaSビジネスでは、顧客数ベースのチャーンレートよりも事業への影響を正確に把握できます。

レベニューチャーンレートは、さらに「グロス」と「ネット」の2つに分けて分析することが重要です。

グロスレベニューチャーンレート
解約やダウングレードによって失われた収益(MRR)の割合を示します。顧客離反による直接的なダメージを測る指標です。

ネットレベニューチャーンレート
失われた収益から、既存顧客のアップセルやクロスセルによる増加収益(Expansion MRR)を差し引いて算出します。既存顧客ベースでの全体的な収益成長率を示し、ネガティブチャーンの達成度を測る指標でもあります。


指標の種類測定対象何がわかるか
カスタマーチャーンレート顧客数どれくらいの割合の顧客が離脱したか
グロスレベニューチャーンレート損失収益解約やダウングレードによる収益への直接的なダメージ
ネットレベニューチャーンレート収益の増減アップセル等を含めた既存顧客ベースでの実質的な収益成長率


SaaS企業が目指すべき「ネガティブチャーン」とは

ネットレベニューチャーンレートがマイナスになる状態、つまり解約やダウングレードによる収益減を、既存顧客からのアップセル・クロスセルによる収益増が上回る状態を「ネガティブチャーン」と呼びます。

ネガティブチャーンは、新規顧客を獲得しなくても既存顧客だけで事業が成長していることを意味し、SaaSビジネスにおける究極の理想形とされています。



チャーン分析の具体的な進め方

チャーンレートを把握したら、次はその数値を改善するための具体的な分析に移ります。

ステップ1:解約要因の特定

まず、なぜ顧客が解約するのか、その根本原因を探ります。表面的な理由だけでなく、その背景にある真のニーズや課題を把握することが重要です。

顧客の声を聞く
解約時アンケートや顧客インタビューを通じて、直接的なフィードバックを収集します。これにより、サービスの課題や顧客の不満を特定できます。

データから分析する
顧客情報やサービス利用履歴などのデータを分析し、解約につながるパターンを発見します。例えば、特定の機能を使っていない、ログイン頻度が低いなどの行動は解約の兆候(チャーンリスク)かもしれません。


【主なチャーンの要因】

要因具体的な内容
オンボーディングの失敗導入初期に価値を実感できず、使いこなせないまま離脱してしまう。
価値が伝わっていないサービスが顧客の課題を解決している実感(ROI)が湧かない。
価格への不満提供価値に対して価格が高いと感じる、または競合と比較して割高に感じる。
サポート体制への不満問題解決が遅い、対応が不十分など、サポート品質が低い。
サービスの品質問題バグが多い、機能が不足しているなど、製品そのものに問題がある。


ステップ2:解約の予兆を捉え、リスク顧客を特定する

効果的なチャーン防止は、解約が発生する前に行動を起こす「予防」にあります。そのためには、顧客の行動データからチャーンリスクの予兆を早期に察知する仕組みが不可欠です。

利用状況のモニタリング
ログイン頻度や主要機能の利用率、サポートへの問い合わせ回数などの変化を監視します。

ヘルススコアの活用
これらの指標を統合し、顧客の健全性をスコアリング(ヘルススコア)することで、対応すべき顧客を客観的に特定できます。


解約を防止するための5つの戦略

チャーン分析で見えた課題をもとに、具体的な解約防止策を実行します。

1. オンボーディング体験の最適化
顧客がサービス導入後、最短で価値を実感(Time to Valueの短縮)できるよう、チュートリアルやガイド付きセットアップを提供します。

2. プロアクティブなカスタマーサクセス活動
データに基づき解約リスクが高いと判断された顧客に対し、問題が発生する前に先回りしてサポートを提供します。顧客の成功を能動的に支援することで、信頼関係を構築します。

3. アップセル・クロスセルの促進
顧客の利用状況を分析し、より上位のプランや関連サービスを適切なタイミングで提案することで、顧客満足度とLTV(顧客生涯価値)を同時に高めます。これはネガティブチャーン達成の鍵です。

4. プロダクトの継続的な改善
顧客からのフィードバックを製品開発に活かし、サービスの価値を継続的に向上させます。

5. 価格体系の柔軟な調整
顧客が感じる価値と価格のバランスが取れているか定期的に検証します。利用量に応じた従量課金や、ニーズに合わせた階層型プランなど、柔軟な料金体系も有効です。


株式会社YOUTRUST様の事例では、Scalebaseの契約・売上データと、YOUTRUSTが保有するデータを活用してチャーン分析を行うことで、解約企業が利用開始からどのタイミングでログイン数が減少し、検索数がどれくらい下がっているかの特定など、有効な分析につながりました。

急成長SaaS企業が直面する顧客属性の変化。プライシング戦略に向き合えたのはScalebaseのおかげ!(チャーンレート改善の支援事例もあり)


チャーン分析と解約防止を加速させる「Scalebase」の活用

効果的なチャーン分析と解約防止には、顧客データの一元管理とリアルタイムな分析が不可欠です。しかし、多くの企業では契約情報、請求データ、利用ログなどが部門ごとに分散し、手作業での集計・分析に多大な工数がかかっているのが実情です。特にExcelやスプレッドシートでの管理は、属人化やヒューマンエラーのリスクを常に抱えています。
このような課題を解決し、データドリブンなチャーン対策を実現するのが、サブスクリプションビジネスの販売管理システム「Scalebase」です。


・散在するデータを一元管理し、正確な分析基盤を構築
Scalebaseは、見積、契約、請求、収益管理といった販売プロセス全体を一元管理します。顧客情報と契約情報が紐づいて管理されるため、どの顧客がどのプランを利用しているか、アップセルや解約などの契約変更履歴もタイムライン形式で正確に把握できます。これにより、信頼性の高いデータに基づいたチャーン分析が可能になります。

・複雑な契約・請求の自動化で、請求ミスによるチャーンを防止
ユーザーID数に応じた段階型課金や、利用量に応じた従量課金など、SaaSビジネス特有の複雑な料金計算を自動化します。請求業務のミスは顧客の信頼を損ない、解約の直接的な原因となり得ますが、Scalebaseを使えば正確な請求プロセスを構築し、顧客満足度を維持できます。NTT東日本様の事例では、Excel管理から脱却し、作業工数を約50%削減した実績があります。

・重要KPIの可視化で、迅速な意思決定を支援
チャーンレート、MRR、ARR、LTVといった重要指標をリアルタイムで可視化するダッシュボード機能を備えています。これにより、チャーンの予兆を早期に察知し、迅速な対策を講じることが可能になります。データに基づいた戦略的な意思決定サイクルを高速で回すことができます。

・データ活用でアップセル・クロスセル機会を創出
正確な契約・利用量データを活用することで、アップセルやクロスセルの最適なタイミングを特定しやすくなります。例えば、カラクリ株式会社様では、ScalebaseのAPI連携と自動従量計算により、利用量超過からアップセルへの流れを実現しています。これは、解約防止だけでなく、ネガティブチャーン達成に向けた攻めの戦略を可能にします。


Scalebaseは、単なる業務効率化ツールではありません。事業の持続的成長を加速させる「データ基盤」であり、チャーン分析と解約防止を成功に導く戦略的パートナーです。



まとめ

チャーン分析とそれに基づく解約防止策は、SaaS・サブスクリプションビジネスの持続的成長に不可欠な活動です。

・現状把握
まずは自社のビジネスモデルに合ったチャーンレート(カスタマーまたはレベニュー)を正確に計算し、現状を把握します。

・原因分析
アンケートやデータ分析を通じて、顧客が解約に至る根本原因を特定します。

・戦略的対策
オンボーディングの改善、カスタマーサクセスの強化、価格戦略の見直しなど、分析結果に基づいた具体的な施策を実行します。

・仕組み化
これらの活動をExcelなどの手作業に頼るのではなく、「Scalebase」のようなシステムを活用して自動化・効率化することで、より高度で迅速な意思決定が可能になります。

チャーンレートという厳しい現実から目を背けず、データと向き合い、顧客中心の改善サイクルを回し続けることが、競争の激しい市場で勝ち抜くための鍵となります


また、サブスクビジネスの契約管理・請求管理の効率化でお悩みの場合は、サブスク企業が多く使用する、販売・請求管理システム「Scalebase」をぜひチェックしてみてください。


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