2024.1.22
コロナ禍の収束や米国の金利上昇に伴い投資環境が冷え込み、SaaS業界は大きな危機を迎えています。
そこでアルプ株式会社と株式会社Magic Momentでは「SaaS冬の時代に備える“いま”見直したいサブスクリプションの収益戦略」というテーマで共催セミナーを開催しました。
今回のセミナーでは、アルプ株式会社の宮嵜氏と株式会社Magic Momentの磐崎氏が、厳しい市場環境の中でもサブスクリプションビジネスの収益を拡大する戦略を、具体例を交えて解説しました。
目次
1.営業組織を取り巻く環境変化
従来のビジネスとサブスクリプションビジネスの事業としての評価指標の違い
既存の営業プロセスは顧客体験を損なう恐れが生じる
2.The Modelの弊害とThe Modelを成功させるために必要なこと
サブスクリプションモデルにおける一気通貫型営業組織の課題
THE MODEL型の特徴
The Modelを導入してもうまくいかない理由と成功のために必要な事
セールステック第三の波:SEPの台頭
The Model 成功のために
3.リニューアルマネジメント
4.プライシング戦略
プライシングにおける3つの基本戦略
プライシング見直しの重要性
5.アカウント管理
契約は常に可変であるという前提条件
収益の予測や予算の策定が容易になるのはなぜ?
基幹システムでは、サブスクの契約管理はできない
宮嵜 麻子(みやざき あさこ)
アルプ株式会社 セールスリーダー
2017年に新卒でワークスアプリケーションズに入社。2019年からWorks Human Intelligenceにて主に大手企業向けERPのセールスを担当。2021年に2人目のセールスとして創業期のアルプに入社し、現在は販売管理システム「Scalebase」のセールスリーダーを担当。
磐崎 友玖(いわさき ゆく)
株式会社Magic Moment Manager, Playbook Sales
上智大学卒業後、Magic Moment創業に参画。Acquisition Marketingとしてオウンドメディア「Accel」を立ち上げ、Customer Successとして上場企業の営業変革を推進。21年4月より、Sales Managerを担当。
(磐崎氏)近年、売り切り方モデルからサブスクリプションビジネスへとビジネスモデルが変化が大きなトレンドになっています。そしてビジネスモデルが変わることで事業指標として注目すべきKPIも大きく変わっています。
サブスクリプションビジネスでは、特に中長期的な顧客との関係性が非常に重要になっています。例えば、収益の発生は、販売した瞬間よりも継続している時、つまりアップセルやクロスセルした時が重要視され、事業の評価もLTV、CACといったユニットエコノミクスが重要視されています。
また、サブスクリプションビジネスは、売り切り型ビジネスと比べて初期の売り上げが非常に小さく見えてしまい、事業評価に苦労されている方が多いと思います。結果的に、売り上げを生み出せずに警戒評価されてしまい経営資源が集まらないこともあると思います。初期投資のコストが非常に掛かるビジネスモデルだということをしっかり理解することが肝要です。
経営層に事業状況を理解をいただくためには様々なKPIがありますが、特にARR、 LTV、 Churnなどがこれまでの売上高に相当する指標として重要な要素を占めています。またLTVに対してCAC(顧客獲得コスト)の比率がユニットエコノミクスとされており、3以上であれば健全な事業であると評価されます。(ただ、シリーズAやB手前までのスタートアップ企業において、3以上を実現するのは非常に難しいです。)
その他に、マジックナンバーという指標もあります。海外のSaaS(上場)企業では公開されていることが一般的です。この指標は1円/1ドル投資をした時にどれだけARRが伸びるのかを表し、営業やマーケティングの効率性を評価する指標です。1が最も理想的な指標の数値ですが一般的には0.75 が実現できると良いとされています。
(磐崎氏)KPIが変わるとこれまでの営業組織のあり方では辻褄が合わない部分が出てきます。
例えば、顧客がウェブサイトで情報収集をして営業担当の方と会うまでにサービスに詳しくなっている状況ですと、顧客と営業の情報格差がなくなり、単なる情報提供では無価値になってしまいます。市場に対する独自の視点や課題、利益アップ、コスト削減の方法など、顧客が気づいていないインサイトを提供することが求められます。受注してから収益を上げていくことは、中長期的な関係性を築く上できっかけにすぎません。
その為、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスで役割を分担するThe Model型の営業プロセスを構築するケースが非常に多くなっております。
(磐崎氏)サブスクリプションモデルで一気通貫型の営業組織を採用する場合、課題は大きく3つあると考えています。
1つ目は営業担当者が一人で担当する領域が広く育成に時間がかかる点です。例えば、新卒を営業担当者として採用している企業だと戦力化に時間がかかり、その間の失注率も高まってしまいます。また、育成そのものにかかるコストも非常に多くなります。
2つ目は、営業手法やプロセスが属人化しやすい点です。ベテランの方がどのタイミングでどの顧客にアプローチしているのかは簡単に真似できないため、それ以外の方は売ることが難しいのが現状です。スタートアップだとCEO以外の営業では売れないということもよくあると思います。
3つ目にKPIが分解しづらくボトルネックの特定が困難だという点です。そのため適切な解決が難しいのが従来の営業組織のあるあるだと思います。
(磐崎氏)一方でThe Model(分業)型組織は、自分の専門スキルを磨き込んでいけばいい為、習熟しやすいのが特徴です。また、分業化されていることでボトルネックが明確になり、PDCAを回しやすくなります。
プロセスがきちんと定義されているので再現性が高く持続的な組織を作りやすくなっています。このような特徴があると営業の方に求めるスキルも仕組みでカバーできます。結果的に効率性も上がり人件費を抑える取り組みができると思います。
サブスクリプションビジネスは初期投資でかなり赤字を負ってしまうと説明しましたが、これを軽減できるところが分業型が選ばれている理由です。
(磐崎氏)ただ、The Modelを導入したからといって、必ずしも成果が出るとは限りません。
The Model型の営業組織では、リード獲得数、商談数、受注数、継続率などのKPIを設定し、業務を効率化するためにMA、SFA、CRMなどのツールを導入することが一般的です。しかし、担当ごとに異なるKPIを設定したり、異なるツールを使用することにより、さまざまな問題が生じます。例えば、ツールが異なることでデータが分断され、顧客情報の連携がスムーズに行われなくなります。また、明確な分業が行われると各オペレーションが孤立し、組織間の連携がうまくいかなくなることがあります。
顧客にとっては企業の組織体制は関係のないため、顧客体験の損害、失注、解約などにつながり、収益に悪影響を及ぼします。これに対処するためには、一貫してプロセスやデータを設計し、運用できる仕組みを構築することが必要です。
The Model型営業組織を成功させるための要素として人、ツール、オペレーションの3つがあります。
オペレーションの実行や改善には人が必要ですが、人を増やすと人件費も比例して増加します。人を増やすことで解決するという道はなるべく避けたいため、The Modelの分断を解消できる設計が重要です。
ツールに関しては、各案件の引き渡し方や顧客の情報、またオペレーションの実行、改善などを早くやりやすいツールを選ぶことが非常に重要です。これまでのSFA、CRMは部門横断での実施が実現できていなかった背景もあり、海外ではThe Model型営業組織の課題を解決するための新たなツールが登場しています。
(磐崎氏)米国の調査機関であるガートナーがセールスエンゲージメントプラットフォーム(Sales Engagement Platform)というツールを営業組織にとってROIがプラスになるという点でレベルワン(Level 1)テクノロジーであると認定しています。レベル1のテクノロジーとは、あらゆるインサイドセールス組織においてセールスエンゲージメントプラットフォームが必須のツールであることを意味しています。
代表的なツールとしてはOutreach、SalesLoft、grooveなどがありユニコーン企業として大きな成長を実現しているツールです。
SEPツールを導入することROIがプラスにすることが可能です、その理由を2つご紹介します。
1つ目は、売上成長の源泉である営業活動量を徹底的に増やせるためです。営業活動量を増やさない限りは商談や受注、契約継続やクロスセルを実現することは難しいです。営業活動量をスケールできると同じ人数でも2倍の企業への営業が実現できます。今までの営業活動は人力が多く、どうしても商談の件数やミーティングに応じて活動量の変動がありました。一方でSEPを活用した営業活動では活動量を積みあげることができます。仮に1日10件の営業活動を行う場合、顧客に対するフォローやリマインドを顧客との関係性を踏まえてフレームワークがフォローしてくれます。人力だけで行うよりも飛躍的に営業活動量が増え、安定的に営業活動ができるため、商談や受注の成果に貢献できます。
2つ目としては営業の質を上げるためです。顧客一人一人に対する営業活動を全て優れた顧客体験にできることもSEPの特徴です。 例えば顧客へのフォローがしっかりされている場合には顧客が放置されることはありません。また、The Model型の弊害である、前任のチームから役割が渡ってきた時に過去のやり取りがどこにも残っていないケースがあります。この問題もSEPを使えば全ての接点を記録できるため解消できます。
(磐崎氏)一気通貫したオペレーションを作っていくという観点から営業シナリオの作成を勧めています。自由ケースばかり行ってしまうと営業担当者への負担が大きくなってしまうため、データを構造化して営業オペレーションを設計することが大切です。
構造化を行うことで、オペレーション改善やメンバーへのフィードバックに活かすことができるからです。ここまでは受注獲得から営業組織のフェーズを説明しました。
ここからは顧客との中長期的な関係性を最大化する戦略について宮嵜さんにお話いただきます。
(宮嵜氏)受注獲得後のフェーズについてご説明します。その中でもまず、リニューアルマネジメントについて簡単にご紹介します。
リニューアルマネジメントとは契約更新前に顧客に接触をして更新を確認するための活動です。サブスクリプションビジネスは、契約期間に沿ってサービスを継続的に提供するビジネスモデルのため、契約の更新が必ず発生します。その際、顧客に対してどのように更新意思を取り、それに伴うアクションをどうしていくかが重要なテーマとなります。
(リニューアルマネジメントについては、以前開催した別のセミナーでより詳細を記載していますので、ぜひご覧ください。)
(宮嵜氏)続いて、プライシング戦略についてご説明します。一般的なプライシング戦略として「原価志向型」「競争志向型」「価値志向型」の3点が挙げられます。
SaaS企業においては約39%が顧客視点の「価値志向型」を採用しています。価格志向性がSaaSと親和性が高い要因は主に2点あります。1点目はカスタマーサクセスの観点から顧客との継続的な関係が構築でき、定期アンケートなどによりサービスのフィードバックや需要を把握しやすいという点です。2点目はプロダクトの進化、機能アップデートなどを通じて顧客の声をサービスに反映させ、顧客の支払い意欲を調整できるという点が挙げられます。(具体的な価格体系には主に定額モデルと従量モデルがあります。)
事業のニーズ検証や料金モデルが本当に顧客に合ってるのかという検証でまずは定額型を採用する企業が多く、成長されている企業に関しては多くが従量モデルを採用しています。
(宮嵜氏)プライシングの見直しが、ユニットエコノミクスやLTV、CACに良い影響を与えるという記事もあります。一方で、BtoBのSaaSでは営業担当者が介入するのがほとんどで現状を把握できていないという課題もあるため、丁寧に振り返りを行うことが大切です。
(宮嵜氏)最後にアカウント管理についてご紹介します。
アカウント管理は、BtoB企業が顧客管理を行う上で、顧客単位で戦略を策定しその顧客に最適なソリューションを提供するための戦略です。顧客と長期的な関係を築きながら顧客満足度や売上の最大化を実現するために重要な戦略となっています。
(宮嵜氏)サブスクリプションサービスを提供するにあたって、顧客の状況も自社の状況も常に変化するという認識が大切です。そのため、契約内容も常に可変するという前提で、契約の履歴管理を行うことが重要です。
契約管理を適切に行うことで、契約期間中に顧客が必要とする機能やサポートなどのニーズを把握することができ、必要な機能やサポートを提供することで、顧客の満足度が高まりリニューアル率の向上や追加販売などにつながります。
(宮嵜氏)契約管理を行うことで、顧客情報や契約内容が一元的に管理できます。これにより顧客ごとの契約期間や契約内容、契約更新日などの情報が把握しやすくなり、顧客のライフサイクルを追跡しやすくなります。
加えて、顧客が契約したプランやサービスを定期的に評価し、KPIを設定することも可能です。例えば、顧客ごとの利用率や契約更新率、顧客満足度などをKPIとして設定できます。KPI目標値の設定や達成状況の確認も容易になり、収益向上に必要な施策を打ち出しやすくなる為、収益の最大化が図れます。
(宮嵜氏)既に導入している基幹システムで契約管理の実現を検討する方も多いのですが、従来の販売管理の仕組みではサブスクリプション特有の契約期間という概念がなく対応が難しいのが現状です。
そのため、顧客の請求金額の計算や売上の集計などが手作業になってしまい、監査から指摘が入るケースは非常に多いです。 適切なシステム導入をして、契約管理を行っていくことをおすすめします。
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