2024.1.22
リニューアルマネジメントとは、契約期間が終了する前に顧客との円滑なコミュニケーションを図り、契約更新の意思確認を行う活動のことです。カスタマーサクセスにおいて重要なミッションとされていますが、商材やターゲットによって施策が異なるため多くの企業が手探りで取り組んでいます。
そこでカスタマーサクセス向けのサービス「SuccessHub」を展開するコミューン株式会社の倉島氏と、アルプ株式会社でカスタマーサクセスを務める水谷氏が、リニューアルマネジメントの取り組みについてウェビナーを行いました。
具体例を交えながら、リニューアルマネジメントの全体像やKPI、各社の取り組み、成果が出た施策などを説明します。カスタマーサクセスに携わる方や、SaaS事業責任者の方におすすめです。
目次
1.はじめに
2.リニューアルマネジメントとは
3.リニューアルマネジメントが重要な理由
4.リニューアルマネジメントはスケジュールが命
5.具体的な取り組み
倉島 駿介(くらしま しゅんすけ)
コミューン株式会社・SuccessHub事業部 CSM
新卒でFintech系スタートアップに入社し、人材・組織コンサルティング領域で新規事業開発を行う。その後B2B事業の立ち上げを経験し、シェアリング系スタートアップで執行役員として創業期の事業立ち上げに携わる。2022年5月コミューン株式会社に入社し、現在は新規プロダクトである「SuccessHub」の事業立ち上げ・カスタマーサクセス業務に従事。
水谷 亮道(みずたに りょうじ)
アルプ株式会社・アカウントマネジメントグループ グループマネージャー
2010年新卒でワークスアプリケーションズに入社。エンタープライズ市場の新規開拓営業部門にて営業責任者を経験。2021年6月に入社したアルプ株式会社で、カスタマーサクセスにキャリアチェンジをし、販売管理システム「Scalebase」における大型プロジェクトのオンボーディング・サポート、プリセールス等を担当。現在はカスタマーサクセス組織のマネージャーとして、チームメンバーと連携し各種施策の計画・実行を行っている。
(倉島氏)本日は「サブスクリプション事業を伸ばすには~リアルマネジメント進め方~」について、アルプ株式会社の水谷さんとお話をさせていただきます。
まず皆さんと目線を合わせるために、リニューアルマネジメントとはどういうものなのか、について説明を行います。メインのトピックでは「SuccsessHub」を提供する コミューン社、「Scalebase」を提供するアルプ社での具体的な取り組みや、難しかったポイントなど、皆様にできる限りお話します。
既にリニューアルマネジメントに取り組まれてる方、今後取り組んでいく予定がある方、具体的に何をすべきかあまりピンときてない方、様々だと思います。カスタマーサクセス界隈は他社事例を仕入れる機会や、話す機会は少ないので、今回はリニューアルマネジメントについて、成功・失敗を問わず2社がそれぞれ行ってきた施策や考え方をお伝えし、明日から実践できることや新しい考え方を提供したいと考えています。
(倉島氏)リニューアルマネジメントについて簡単にご紹介します。
リニューアルマネジメントは、サブスクリプションビジネスにおいて、契約期間が終了する前に顧客との円滑なコミュニケーションを図り、契約更新の意思確認をするCS活動のことです。サブスクリプションビジネスは、契約期間に沿ってサービスを継続的に提供するビジネスモデルのため、契約の更新が必ず発生します。その際、顧客に対してどのように更新意思を取り、それに伴うアクションをどうしていくかが重要なテーマとなっています。
SuccessHubが、カスタマーサクセスにおける重要指標について行ったアンケートでは、172社中83社の会社が「顧客単価の最大化」や「解約率」を重要視してることが分かりました。この2つの指標を最適化する上でも、リニューアルマネジメントは関係しており、その重要性についてご紹介します。
(倉島氏)リニューアルマネジメントにおいては、契約意思を確認すること、つまり既存顧客からどれだけ継続や追加の契約を勝ち取れるかがポイントです。
新規顧客獲得にかかるコストは、既存顧客への販売コストの5倍であると言われています。逆の視点で言うと、既存顧客からの受注は、新規顧客の5分の1の金額で獲得できるということです。経営的に見てもこの数値インパクトはとても大きく、リニューアルマネジメントに注力すべき理由の1つになります。
(倉島氏)カスタマーサービスにおいて解約率・チャーンについての話をされる機会はとても多いと思います。
解約率を5%改善することによって最終的に利益率が最低でも25%改善されるという数値が出ています。5%、5%と毎年繰り返されることにより最終的に25%以上改善されます。既存顧客の解約によるマイナスの影響はとても大きいです。どう契約更新をたどっていくのか、そのためにどのようなアクションを行うのかは、リニューアルマネジメントの大切な考え方です。
例えば、解約理由のうち4分の1程度は、契約してからサービスを利用するまでのオンボーディングの段階でうまく軌道に乗らなかったことが原因というケースがあります。これはつまり、カスタマーサクセス担当のアクション次第に応じて、契約更新の率も変えられることを意味します。
もちろんプロダクト面の機能不足というカスタマーサクセスだけでは解決できない要因もありが、オンボーディングが要因となって契約解約するケースも存在するため、カスタマーサクセスも解約と無関係ではないことがこの数字から読み取れます。
(倉島氏) リニューアルマネジメントを実施していく中で、よくある悩みが以下のような内容です。「どのタイミングですればいいかわからない」、「解約率といっても様々な要因があるため何を目標とすればいいのかがわからない」、「営業に苦手意識を持っているため、働きかけることが難しい」など、様々な課題が出ると思います。
(倉島氏)そのなかでも特に意識すべきなのは、スケジュール管理です。例えば契約更新日が今日であった場合、昨日動けば間に合うのかというと確実に間に合いません。ではいつから動いていけばいいのか、がポイントになります。
目安として契約更新の3ヶ月前にアクションを実行していただければと思います。そこから解約の可能性が出てきたお客様に対して、不満解消のアクションを行うことを意識しましょう。これが例えば2週間前からのアクションだと、顧客の不満解消に時間的余裕がなくなります。アクションまでを見据え十分なゆとりをもつことが大切です。
(倉島氏)リニューアルマネジメントは、契約更新の意思を確認するカスタマーサクセスの活動の一つですが、更新意思を確認していく中でお客様と様々な接点を持つことができるところも大きな特徴です。どのような目的か、どう計画的に進めていくか、を意識することが大切です。
(水谷氏) ここからは実際の取り組みについてご紹介します。今回は、両社が実際に取り組んでいる内容を、「製品の特徴」「取り組み始めたきっかけと目的」「何を意識しているか」「施策」の大きく4つのテーマでご紹介します。
(倉島氏)横軸はカスタマーサクセスの組織フェーズで、立ち上げ~成熟期までのカスタマーサービスの組織規模を示しています。縦軸はプロダクトの価値です。
経理システムや勤怠システムなど、そのプロダクトがないと業務が回らないものか、営業やカスタマーサクセスの効率化ツールなどのように、そのプロダクトがなくても業務はできるけれども、いまの業務をより効率的にするにはあったほうが良いものかを上下で分けました。どの象限にプロダクトが存在するかでカスタマーサクセスが行うべきアクションが異なるので、自社のプロダクトがどこに位置するかを考えていただくことが重要になります。
(水谷氏)ここではまず「Scalebase」の製品機能を簡単にご紹介します。
Scalebaseは、取引顧客の契約内容や請求業務を管理するツールで、サブスクリプションビジネスやSaaSの企業様が主な利用者となっています。サブスクリプションビジネスの場合、どの顧客にどのサービスをいくらで契約しているのかを、契約期間に沿って時系列で管理する必要があります。これらの複雑な販売や請求の効率化を、製品の1つの価値として提供しています。
Scalebaseは、企業の基幹業務に近いところとして位置づけられ、比較的重いシステム導入プロジェクトが必要なため、一度運用が始まると変更が難しく、チャーンが少ない傾向があります。また、商品提供領域としては、成長する企業様のプライシングや販売ルールの変更に対応する柔軟性と、正確な請求金額を出すという保守的な性質のハイブリッドな要素を持っています。
(水谷氏)取り組み始めたきっかけとしては大きく2つあり、どちらも外発的な要因がきっかけです。
1つ目は、Scalebaseの機能に起因しないチャーンが発生したことです。 具体的には先方の担当者や役員が変更になったことがきっかけでシステムの見直しが行われ、Scalebaseがその対象となってしまいました。担当者の変更自体は回避できませんが、担当者変更が起きても使い続けてもらえるようなコミュニケーションはできたかもしれないと感じています。
2つ目は、大企業のお客様に導入いただく機会が増えてきたことです。予算を意識して動いている企業様が多いため、決算の時期を考慮して提案する必要が出てきました。具体的には、来期に更新の予算をとる上でで継続の理由のようなものを求められる、というケースです。幸いチャーンは発生していませんが、相談を受けて後手で対応するのではなく、時期を見据えてこちらから仕掛けていくべきだと感じています。
(水谷氏)アルプ株式会社がリニューアルマネジメントを行っている目的は2つあります。
1つ目は、製品に対する正しい評価を知れる良い機会だということ。BtoBの契約はドライだと思っており、利用者の誰かしらが評価していても更新のタイミングで切られてしまうこともあります。そのため評価ポイントを明らかにするのは契約更新において重要です。リニューアルマネジメントは、日常のサポート業務ではなかなか出づらいお客様の本音と真摯に向き合うタイミングを自動的に作れる1つの手段として捉えています。この機会を通じて、お客様、担当カスタマーサクセス、社内メンバーとのモメンタムを形成することができると考えています。
2つ目がカスタマーサクセスメンバーのスキルアップの観点です。すべてのお客様の満足度が100点満点みたいな製品はありえないと思っています。そのため製品の満足度について掘り下げて尋ねることに、一定の心理的ハードルがあると思います。これは正直仕方ないことだと思っていますが、少し踏み込んで更新の意思確認をすることによって、双方が普段は話せないことを言葉にできる機会になると思います。さらにそこから事例インタビューなどにつなげることができれば、カスタマーサクセスとして新たな可能性を開けたと感じます。
(倉島氏)一定の評価をしっかり得られるかどうかがポイントになりそうね。心理的ハードルについては、誰しもが高いと感じる部分になると思います。ただ、このリニューアルマネージメントの機会を通してどのような対応をできるかで、カスタマーサクセスとしての大きなスキル向上に繋がるというのは納得します。
(倉島氏)次にKPI ・指標についてです。ここでは各社ごとに見ていきます。
(倉島氏)「SuccessHub」での事例では、オンボーディングとリニューアルそれぞれに分けてご紹介します。
オンボーディングに関してはオンボーディング完了の状態になってるお客様が全体の何割いるのか、リニューアルに関しては更新意思の打診率を重要指標として置いています。リニューアルはさらに、更新意思をどれだけ打診ができるのか、 ちゃんとコミュニケーションの取れたお客様が全体の中の何割いるのかまで見ています。
(倉島氏)お客様に働きかけた結果どのような変化があったか、それを数値として追うことはカスタマーサクセスにおけるKPI のあるあるだと思っています。弊社ではフェーズごとに4つの軸を用いてヘルススコアの運用を行っています。
オンボーディングの完了を一つの指標として確認し、さらに担当者の接触頻度やチャーン予測、プロダクトの活用状況や、導入時点での目標をどう達成しているかなどです。オンボーディングを完了したお客様について、この4つのスコアの見える化を通して打診のタイミングを確認し、打診前に問題点が見つかりそうであれば事前に不満解消に向けたアクションを行っていくというイメージです。
(水谷氏)ありがとうございます。続いて「Scalebase」の場合をご紹介します。
指標を2つ設けており、1つ目がお客様から更新意思確認ができている状態か、2つ目がお客様に事例インタビューを依頼or発信できている状態かです。事例インタビューとは、「Scalebase」のホームページやランディングページに掲載する実際の製品の活用事例のことです。元々は1つ目の更新意思確認だけでしたが、お客様の得られている成果を明らかにしたいという気持ちが強く、今は2つ目にも注力しています。
日々プロダクトに触れていると、評価されている点についてフォーカスするタイミングを逃しがちになってしまいます。そのため、普段の定例会の延長線上でなかなかコミュニケーションの雰囲気を変えることが難しい場面において、事例インタビューは場の雰囲気を強制的に変える手段としてかなり有効だと考えています。例えばオフラインでインタビューを実施し、普段と少し空気を変えてみると、ちょっとだけポジティブに話してもらえたり。そういう意味でも非常に大切な KPI として置いてます。
事例インタビューを行うことで初めて聞けるお客様の活用状況などもあり、今までの定例では耳にしたことがないメリットを話していただけることが多くあります。直接カスタマーサクセスを褒めいただく、みたいな機会にもなっていて担当のモチベーションも上がる良い機会だと思っています。
(倉島氏)リニューアルマネジメントの実施を決めたとしても、まず指標をどうしようかって思われる方が多いと思います。事例インタビューは確かに、様々なポジティブな要素があり、かつ指標としての追いかけもしやすいと思います。事例インタビューから取り組んでみるというのはとても良さそうに思いました。
(水谷氏)事例インタビューの依頼も、最初はどうしてもハードルがあると思います。でもそこでちょっと勇気を出して踏み込んでみれば、一歩先に進めると思います。どうしても言いづらい場合は上長にも同席してもらうなど、様々な戦略でコミュニケーションを取ってみるといいかもしれません。
(水谷氏)Scalebaseでは、業務をフォローするためのコミュニケーション機会や請求業務が落ち着いたタイミングで月次の定例会などを設けているため、日常の接点が全くないわけではないのが特徴です。そのような状態であってもリニューアルマネジメントを実施すべきなのか、といった疑問はあるかなと思います。私自身はその場合でも間違いなく行うべきであると考えています。
リニューアルマネジメントは「仕組み化ができれば日常のコミュニケーションと区分できる」ところが一番のポイントだと思っています。更新意思確認にあわせてお客様の事業成長に伴って利用料アップの提案を持っていくなど。また、現状の「Scalebase」で払拭できてない課題があるお客様に対しては、今後の開発計画みたいなものを一緒に提案しに行って継続が決まる、みたいなケースも過去にありました。
もちろん意思確認をすることによってネガティブな話題が出る可能性も当然あります。むしろマイナス要素を発見できたことは、通常より対策を早く考えることができる良い機会だと考えています。
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