2025.10.1

SaaSの売上を最大化するプライシング戦略|料金体系全モデルと価格改定・料金表の作り方を徹底解説

SaaSビジネスにおいて、プライシング(価格設定)は単なる「値付け」ではありません。それは顧客にサービスの価値を伝え、競合との差別化を図り、ビジネスモデルそのものを体現する、極めて重要な経営戦略です。優れたプロダクトであっても、料金モデルが市場や顧客ニーズと合致していなければ、LTV(顧客生涯価値)の最大化は望めません。

本記事では、SaaS事業のプライシング戦略を最適化できるよう、料金体系の全モデル解説から、具体的な料金表の作成ステップ、そして事業成長を止めないための価格改定やシステム選定のポイントまで、網羅的かつ実践的に解説します。


また、SaaSビジネスにおける従量モデルの魅力や、具体的な金額の算出方法、プライシングの見直しの重要性など、事業成長に役立つプライシングの考え方を分かりやすく解説した資料もご提供しています。ご興味のある方は「サブスクリプションにおける料金設計(プライシング)の基本」もあわせてお読みください。


目次
なぜSaaSにとってプライシング戦略が重要なのか?
SaaS料金体系の全モデル徹底比較
戦略的な価格決定の3つのアプローチ
売上向上に繋がる「SaaS料金表」作成のポイント
事業成長を止めないためのプライシング運用と価格改定
SaaS事業の契約管理、料金計算、請求書発行・代金回収までを支える「Scalebase」


なぜSaaSにとってプライシング戦略が重要なのか?

近年、SaaSのプライシング戦略は、これまで以上に経営アジェンダの中心に据えられるべきテーマとなっています。その背景には、大きく3つの環境変化があります。

1. AI時代における価格戦略の高速化(アジリティ)の必要性 

AIの進化は、SaaSの価値提供のあり方を根本から変え、価格モデルの見直しサイクルを劇的に加速させています。従来の「5年に一度」という常識は過去のものとなり、Salesforceのような大企業ですら年間数回の価格変更を行う時代です。このような環境で生き残るには、市場の変化に応じて迅速に価格実験を繰り返し、最適化を図る「アジャイルな価格戦略」と、それを支える柔軟な販売・請求管理基盤が不可欠です。

2. 市場の成熟化と「価値の価格への反映」の重要性

多くのSaaS領域でプレイヤーが出揃い、機能面での差別化が難しくなっています。この状況では、「その価値をどう価格に反映させるか」が競争優位性の決定要因となります。実際に、プライシングを1%改善するだけで利益率が12%向上するというデータもあり、新規顧客獲得(3.3%改善)や解約率改善(6.7%改善)といった他の施策と比較しても、そのインパクトの大きさは明らかです。

3. 顧客の期待値の変化と従量課金の台頭

顧客は「モノの所有」から「体験価値(コト消費)」へと価値観をシフトさせており、実際に受け取った価値に対して対価を支払う、公平で透明性の高い料金モデルを求めています。この流れを受け、利用した分だけ支払う「従量課金」モデルが急速に普及。2022年の調査では、SaaS企業の46%が何らかの形で従量課金を採用しており、その割合は年々増加しています。


【参考記事】従量課金とは?メリット・デメリットから具体事例まで徹底解説


SaaS料金体系の全モデル徹底比較

SaaSの料金体系は、大きく「定額課金」と「従量課金」に大別され、そこから派生した多様なモデルが存在します。自社の製品特性と顧客セグメントに最適なモデルを選択することが、事業成長の第一歩です。

1. 定額課金モデル

月額や年額で固定料金を支払う最もシンプルなモデルです。顧客・事業者双方にとって売上やコストの予測がしやすいというメリットがあります。一方で、利用量が少ない顧客には割高に感じられ、ヘビーユーザーからは本来得られるはずの収益機会を逃す可能性があります。定額課金は、さらに以下のように細分化できます。

サービス内容別定額
提供する機能やサポートレベルに応じてプランを分ける方式です。SmartHRのように、人事労務とタレントマネジメントでプランを分ける例があります。多様な顧客ニーズに応えやすい反面、プラン設計が複雑になるデメリットがあります。

ボリューム別定額
ユーザー数やデータ容量など、利用量の「段階(ボリューム)」に応じて料金テーブルを設定する方式です。利用量が増えることが想定されるが、従量課金による「利用控え」を避けたい場合に有効です。

2. ユーザー数課金モデル

サービスを利用するユーザー(アカウント/シート)数に応じて課金する、SaaSで非常に人気のモデルです。組織の成長と共に自然なアップセルが期待できます。

アクティブユーザー課金
Slackのように、実際にサービスを利用したアクティブなユーザーのみを課金対象とするモデルです。顧客の納得感が高く、「アカウントの使い回し」によるライセンス違反を防ぐ効果もあります。

3. 従量課金モデル

サービスの利用実績に応じて請求額が変動するモデルです。顧客は「使った分だけ支払う」ため公平性を感じやすく、サービス導入の心理的ハードルを大きく下げます。 近年、Snowflake、AWS、Stripe、Twilioといった急成長企業がこのモデルを採用し、成功を収めています。 一方で、事業者側は収益予測が難しく、利用量の正確な計測と請求業務が複雑化するという重大な課題があります。

企業名課金の指標(バリューメトリクス)顧客価値との連動
Dropboxストレージ容量保存するファイル量が増えるほど価値が高まる
Snowflakeデータ量、コンピュートリソースデータ活用の規模が価値そのものである
Stripe決済処理のトランザクション数決済が成功した分だけ支払う公平なモデル
Twilio送信したメッセージ数、通話時間コミュニケーション量に応じてコストが発生

4. 段階制モデル

利用量が増えるにつれて単価が変動するモデルで、多くのSaaSで採用されています。通常、ボリュームディスカウントの要素が組み込まれ、ヘビーユーザーの利用を促進します。 顧客の多様なニーズに応えやすい反面、プランが多くなりすぎると顧客が選択に迷う「選択のパラドックス」に陥る可能性があります。

5. フリーミアムモデル

基本的な機能を無料で提供し、より高度な機能や容量に対して課金するモデルです。NotionやZoomのように、プロダクト主導でユーザー数を拡大するPLG(Product-Led Growth)戦略と非常に相性が良いです。 ただし、無料ユーザーを有料プランへ転換させる魅力的な導線設計が不可欠であり、安易に導入すると収益化に苦しむ可能性があります。

6. ハイブリッドモデル

定額課金と従量課金を組み合わせたモデルです。例えば、「月額基本料金+超過分の従量課金」といった形式を取ります。 定額部分で安定収益を確保しつつ、従量部分でアップサイドを狙えるため、収益の安定性と柔軟性を両立させたい多くのSaaS企業が採用しています。

7. パフォーマンスベースモデル

生成されたリード数やコスト削減額など、顧客が達成した「成果」に基づいて課金するモデルです。顧客と事業者のインセンティブが完全に一致しますが、成果の測定と管理が非常に複雑になる可能性があります。



戦略的な価格決定の3つのアプローチ

最適な料金体系モデルを選んだら、次に具体的な価格を決定します。その際のアプローチは、大きく3つの視点に分けられます。

アプローチ1:顧客視点

SaaSにおいて最も推奨されるアプローチで、顧客が製品から得られる「価値(バリュー)」を基準に価格を決定します。 このアプローチの核となるのが、「バリューメトリクス(価値指標)」の選定です。「何に対して課金すれば、顧客は価値と価格が連動していると感じるか」を見極めることが成功の鍵となります。例えば、Slackは「アクティブユーザー数」を指標とし、コラボレーションの活発さという価値に連動させています。

EVC (Economic Value to the Customer) 分析とは バリューベースプライシングを実践する具体的な手法としてEVC分析があります。これは、「顧客が次に選ぶであろう代替手段(Next Best Alternative)の価格」に、「自社製品が提供する独自の差別化価値(Differentiation Value)」を上乗せして、顧客が支払える上限価格を算出するものです。算出されたEVCから、戦略的に割引を行うことで、顧客にとって魅力的な価格を設定します。

アプローチ2:競合視点

競合他社の価格を参考に自社の価格を考えるアプローチです。市場参入初期や、機能的な差別化が難しい場合に有効ですが、価格競争に陥りやすく、利益率が低下するリスクがあります。Wayback Machineで過去の料金表を調査するなどの手法があります。

アプローチ3:自社視点

開発費などのコストに一定の利益率を上乗せして価格を決める方法です。利益を確保しやすい反面、SaaSの限界費用は低いため、顧客が感じる価値を大きく下回る価格設定になり、収益機会を逃す可能性があります。

実務では、これら3つの視点を複合的に用いることが理想です。バリューベースを主軸に顧客が支払える上限価格(EVC)を算出し、競合価格で市場でのポジショニングを確認、最後にコスト構造から利益が確保できる下限価格を検証する、という流れで戦略的な価格決定を行いましょう。



売上向上に繋がる「SaaS料金表」作成のポイント

料金表は、単なる価格リストではなく、顧客に価値を伝え、購入を後押しする重要なマーケティングツールです。

・ターゲット顧客とペルソナの明確化
誰に、どのような価値を届けるのかを定義します。企業の規模、業種、導入目的によって、響く価値や価格感度は異なります。

3〜4つのプランでパッケージングする
選択肢が多すぎると顧客は選べなくなります。米国の主要SaaS企業の76%が3〜4プラン構成を採用しており、これは顧客が比較検討しやすい最適な数とされています。一般的に「エントリー」「スタンダード(おすすめ)」「プレミアム」の3プラン構成が効果的です。

心理学を活用し、最も売りたいプランへ誘導する
「おすすめ」ラベルを付けたり、デザインを目立たせたりすることで、多くの顧客を最も収益性の高いプランに誘導する「アンカリング効果」を活用します。また、「$9.99」のように端数価格を用いる「チャームプライシング」も顧客の心理的抵抗を下げる効果があります。

料金表をWebサイトに掲載するか判断する
PLG(プロダクトレッドグロース)型で個人や中小企業向けのサービスは、料金表を公開することで顧客獲得を促進できます。一方、大企業向けで営業主導(SLG型)のサービスは、「お問い合わせ」に誘導する方が効果的な場合があります。


事業成長を止めないためのプライシング運用と価格改定

プライシングは一度決めたら終わりではなく、事業フェーズや市場環境の変化に応じて継続的に見直し、最適化していくプロセスです。米国SaaSスタートアップの約80%は、年に1回以上の価格の見直しを行っているとの調査結果もあります。

値上げ(価格改定)を成功させるには?

コスト上昇や提供価値の向上に伴い、値上げは多くのSaaS企業にとって避けられないテーマです。成功の鍵は「タイミング」と「伝え方」にあります。

タイミング
新機能の追加やサポート体制の強化など、提供価値が向上したことを明確な理由として伝えられるタイミングが理想です。

伝え方
「値上げはサービス向上への投資である」というメッセージを伝え、顧客のネガティブな印象を最小化することが重要です。新規顧客から新価格を適用し、既存顧客には一定の猶予期間を設けるといった段階的なアプローチが反発リスクを低減します。

プライシングにおけるカスタマーサクセスの重要性

プライシングは一度決めると変更が難しく、組織内で聖域化されがちです。しかし、顧客と最も近い位置にいるカスタマーサクセス(CS)は、「プライシング改定の可能性」を最も早く検知できる存在です。 以下のような予兆は、価格モデルが見直されるべきサインかもしれません。

• 利用率は高いのに、ダウングレードや解約が発生する(顧客にとって割高になっている可能性)。

• 解約率が異常に低い(特定の顧客にとって割安になりすぎ、収益機会を逃している可能性)。

• アップセルに苦労する(上位プランに魅力がない、価格差が大きすぎるなど)。

CSはこのような現象から、プロダクトや経営層に変更を提案することで、事業成長に大きく貢献できるのです。

アジャイルな価格実験文化の醸成

AI時代においては、市場の変化に対応するため、アジャイルな価格実験の文化を醸成することが不可欠です。価格をプロダクトの一機能と捉え、A/Bテストなどを通じて短いスプリントで価格テストを回し、結果を即時に反映できるパイプラインを構築することが求められます。 しかし、Dropboxの事例では、価格変更のテスト自体は数時間で終わるものの、それを請求システムに反映させるのに数四半期を要したと報告されており、従来のシステムではこのアジリティを実現できないことが課題となっています。


複雑なプライシング戦略を支える販売管理システム「Scalebase」

従量課金、ハイブリッドモデル、頻繁な価格改定といった柔軟でアジャイルなプライシング戦略を実行しようとすると、Excelやスプレッドシートによる手動管理はすぐに限界を迎えます。複雑な料金計算や契約管理、毎月の請求業務は属人化し、誤請求のリスクも増大します。これらの構造的・業務的な課題を解決し、事業成長を止めないためには、複雑な継続課金ビジネスに対応した販売・請求管理システムの導入が不可欠です。

「Scalebase」は、SaaSをはじめとするBtoBサブスクリプションビジネスに特化した販売管理システムです。見積から契約、請求、売上管理までの一連の販売プロセスにおけるデータのつながりを実現し、プライシング戦略の実行を強力に支援します。

柔軟な料金モデルに標準対応し、アジャイルな価格実験を可能に
定額、従量課金、段階制従量、日割り計算、顧客ごとの個別割引など、Excelでは管理が困難なあらゆる複雑な料金計算を自動化します。商品マスタを変更するだけで新プランや価格改定に迅速に対応でき、事業スピードを加速させます。

時系列での契約管理で、正確な請求とアップセルを実現
プラン変更やオプション追加といった契約の変更履歴をタイムライン形式で正確に一元管理。これにより、新旧プランが混在する複雑な状況でも請求ミスを防ぎ、契約実態に基づいた正しい請求分析が可能になります。

データに基づいた迅速な意思決定を支援
MRR/ARR、LTV、チャーンレートといった重要KPIをリアルタイムで可視化。SFA/CRMなどの営業データとは異なり、実際の契約・請求データに基づく正確な数値を把握できるため、データドリブンな戦略的意思決定を支援します。

多くの導入企業が、Scalebaseによって複雑な請求業務から解放され、事業成長に合わせた柔軟なプライシング戦略を実現しています。



まとめ

SaaSのプライシング戦略は、もはや静的なものではなく、市場や顧客の変化に合わせ、アジャイルに進化させ続けるべき動的な経営活動です。 本記事で解説したように、成功の鍵は**「顧客に提供する価値」を中心に据え、それを正確に測定・反映するバリューメトリクスを見つけ出すこと**にあります。そして、従量課金やハイブリッドモデルといった柔軟な料金体系を採用し、CSなどの現場からのフィードバックを元に、継続的に価格をテスト・最適化していくことが不可欠です。

サブスクビジネスにおける契約管理・請求管理の効率化でお悩みの場合は、サブスク企業が多く使用する、販売・請求管理システム「Scalebase」や「SaaS販売管理の業務効率化 | Scalebase(スケールベース)」をぜひチェックしてみてください。


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