2025.9.17

SaaS KPI完全ガイド|事業成長を加速させる重要指標とKPIツリー活用法

SaaS(Software as a Service)市場は世界的に急成長を続けており、多くの企業がサブスクリプションモデルを事業の柱に据えています。しかし、市場の拡大とともに競争は激化し、企業が生き残るためには、絶えず成長を続けることが不可欠です。

この熾烈な競争環境で成功を収める鍵は、データに基づいた客観的かつ迅速な意思決定です。勘や経験だけに頼るのではなく、事業の健康状態や成長性を正確に示す「KPI(重要業績評価指標)」を正しく設定し、継続的にモニタリングすることが、SaaSビジネスを成功に導く羅針盤となります。

本記事では、SaaS・サブスクリプション事業の成長に不可欠な主要KPIを網羅的に解説します。さらに、目標達成への道筋を可視化する「KPIツリー」の作り方や活用法まで、実践的な情報を提供します。自社に最適なKPIを見つけ、データドリブンな経営を実現するための一助となれば幸いです。


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目次
SaaSビジネスにおけるKPIの重要性
【カテゴリ別】SaaSビジネスの主要KPI一覧
KPIツリーで目標達成への道筋を可視化する
成果を出すためのKPI設定・運用のポイント
その他に押さえておきたいSaaS関連KPI・用語集
複雑化するSaaSビジネスのKPI管理をシンプルにしませんか?


SaaSビジネスにおけるKPIの重要性

まず、なぜSaaSビジネスにおいてKPIがこれほどまでに重要視されるのか、その理由と基本的な概念を整理しましょう。

KPIとは何か?KGIとの違い

KPIを理解する上で、KGIとの関係性を把握することが不可欠です。

KGI (Key Goal Indicator:重要目標達成指標): 
事業やプロジェクトにおける最終的な目標を定量的に示した指標です。売上高や利益率、市場シェアなどが該当します。

KPI (Key Performance Indicator:重要業績評価指標): 
KGIという最終目標を達成するためのプロセスが適切に進んでいるかを測る中間指標です。KPIを達成していくことで、結果的にKGIの達成につながります。

例えば、KGIを「年間売上20%アップ」と設定した場合、「新規MRR(月次経常収益)の獲得額」や「解約率の低減」などがKPIとなります。

なぜSaaSでは独自のKPIが重要なのか

SaaSビジネスは、従来の売り切り型とは収益構造が大きく異なるため、特有のKPI(SaaSメトリクスとも呼ばれる)を用いた管理が不可欠です。KPIが重要視される主な理由は以下の通りです。


継続収益モデルの特性:
SaaSの多くはサブスクリプションモデルであり、顧客との継続的な関係が収益の基盤です。そのため、顧客の継続利用や解約状況を示すKPIが事業の安定性を直接的に反映します。

将来の売上予測と戦略立案:
MRR(月次経常収益)や解約率などのKPIをモニタリングすることで、将来の収益予測の精度が高まります。これにより、人材採用やマーケティング投資といった戦略的な計画が立てやすくなります。

サービス改善の促進: 
顧客の利用状況や満足度を示すKPIは、サービスのどの部分に価値を感じ、どこに改善が必要かを特定するための貴重なデータとなります。

部門間の連携強化:
マーケティング、営業、カスタマーサクセスといった各部門が共通のKPIを追うことで、役割が明確になり、KGI達成に向けたスムーズな連携が可能になります。

投資家への説明責任:
多くのSaaSビジネスは初期投資が大きく、外部からの資金調達が不可欠な場合があります。MRRの成長率やLTV(顧客生涯価値)といったKPIは、事業の成長性や健全性を客観的に示すための共通言語となり、投資家からの信頼獲得に繋がります。


【カテゴリ別】SaaSビジネスの主要KPI一覧

SaaSビジネスで追うべきKPIは多岐にわたりますが、ここでは特に重要な指標を「収益・成長性」「効率性」「顧客維持・継続性」の3つのカテゴリに分けて網羅的に解説します。

【収益・成長性】事業の規模と成長スピードを測る指標

事業がどれだけ拡大しているかを示す、最も基本的なKPI群です。

KPI指標概要と計算式                        
MRR / ARRMRR(月次経常収益)は、毎月決まって得られる収益です。ARR(年間経常収益)は、MRRを12倍した年間収益の指標です。事業の安定性と成長性を測る最も重要な基準となります。

計算式 MRR = サービスの月額利用料金 × 顧客数ARR = MRR × 12
ARPA / ARPUARPAは1アカウントあたりの平均収益、ARPUは1ユーザーあたりの平均収益です。顧客単価の動向を把握し、価格戦略の評価に役立ちます。

計算式 ARPA = MRR ÷ 総アカウント数
Quick Ratio新規顧客獲得やアップセルによる収益増加分と、解約やダウングレードによる収益減少分の比率を示す指標。事業成長の「質」や「健全性」を判断できます。一般的に「4」以上が健全とされます。

計算式 Quick Ratio = (New MRR + Expansion MRR) ÷ (Churn MRR + Contraction MRR)


【効率性】事業の健全性と投資対効果を測る指標

顧客獲得や事業運営にかかるコストと、それによって生み出されるリターンのバランスを評価するKPI群です。

KPI指標概要と計算式                        
CAC顧客獲得単価(Customer Acquisition Cost)。新規顧客を1人獲得するためにかかった総コストを示します。

計算式 CAC = 顧客獲得のための総コスト ÷ 獲得した新規顧客数
LTV顧客生涯価値(Lifetime Value)。1人の顧客が取引期間中にもたらす利益の総額を示す指標です。CACと比較することで、事業の長期的な収益性を判断します。

計算式 LTV = ARPA ÷ レベニューチャーンレート
ユニットエコノミクスLTVとCACの比率 (LTV ÷ CAC)。「3」以上が健全な状態とされています。

計算式 ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC
CAC Payback PeriodCAC回収期間。顧客獲得にかかったコスト(CAC)を回収するまでにかかる期間です。期間が短いほど、投資効率が良いと判断できます。一般的に12ヶ月以内が目安とされます。

計算式 CAC Payback Period = CAC ÷ (ARPA × 粗利率)


【顧客維持・継続性】顧客との関係性を測る指標

顧客がサービスを継続的に利用してくれているか、満足しているかを評価するKPI群です。

KPI指標概要と計算式                        
Churn Rate解約率。一定期間内にサービスを解約した顧客の割合です。SaaSビジネスの成功を左右する最重要指標の一つです。

計算式(カスタマーチャーンレート)
Churn Rate = 当月の解約顧客数 ÷ 前月末の顧客数 × 100
CRR / リテンションレート顧客維持率(Customer Retention Rate)。一定期間内に契約を継続した顧客の割合を示す指標です。

計算式 CRR = (期間終了時の顧客数 - 期間中の獲得顧客数) ÷ 期間開始時の顧客数 × 100
NRR売上維持率(Net Revenue Retention)。既存顧客からの収益が、アップセルや解約などを含めて前期間と比較してどの程度維持・成長したかを示す指標です。100%を超えると、健全な状態(ネガティブチャーン)を意味します。

計算式 NRR = (月初のMRR + Expansion MRR - Contraction MRR - Churn MRR) ÷ 月初のMRR × 100
NPS®顧客推奨度(Net Promoter Score)。顧客ロイヤルティを測る指標です。

計算式 NPS® = 推奨者の割合(%) - 批判者の割合(%)
AUアクティブユーザー数(Active Users)。実際にサービスを利用しているユーザー数です。DAU(日次)、MAU(月次)などがあります。

計算式 MAU = 月間にアクティブだったユニークユーザー数



KPIツリーで目標達成への道筋を可視化する

個別のKPIを追うだけでは、全体像を見失いがちです。そこで役立つのが「KPIツリー」というフレームワークです。

KPIツリーとは?

KPIツリーとは、最終目標であるKGIを頂点に置き、その達成に必要なKPIをロジックに基づいて階層的に分解・可視化したツールです。これにより、各KPIが最終目標にどう貢献するかの因果関係が明確になります。

KPIツリーのメリット

目標達成までの道筋が明確になる:
 KGI達成のためにどのKPIを改善すべきかが一目瞭然となり、具体的な行動計画を立てやすくなります。

課題の早期発見と対策: 
各KPIの進捗をモニタリングすることで、ボトルネックとなっている箇所を迅速に特定し、改善策を講じることが可能です。

組織全体の連携強化:
各部門やメンバーが自身の役割と目標達成への貢献度を理解し、組織全体で同じ方向を向いて取り組むことができます。

KPIツリーの作り方(4ステップ)

効果的なKPIツリーは、以下の手順で作成します。

Step1: KGI(最終目標)を設定する
「年間売上10億円達成」のように、組織が最終的に目指す目標を具体的かつ定量的な指標で設定します。

Step2: KGIを構成する成功要因(KSF)を洗い出す 
KGIを達成するために必要な要素を分解します。例えば「売上」であれば、「新規顧客からの売上」と「既存顧客からの売上」などに分解できます。

Step3: 成功要因を具体的なKPIに分解する 
各成功要因を、さらに具体的なKPIへと細分化します。最終的に、具体的な行動に結びつく段階まで分解することが重要です。

Step4: 定期的に見直しと改善を行う
設定したKPIツリーが現状に即しているか、定期的に確認し、必要に応じて修正します。




成果を出すためのKPI設定・運用のポイント

効果的なKPIマネジメントを行うためには、いくつかの重要なポイントがあります。

SMARTの法則を意識する
KPIを設定する際は、「Specific(具体的)」「Measurable(測定可能)」「Achievable(達成可能)」「Relevant(関連性)」「Time-bound(期限)」の5つの要素を満たすことが重要です。

事業フェーズに合わせてKPIの優先順位を変える: 
事業の立ち上げ期、成長期、成熟期では、重視すべきKPIが異なります。

組織・部門に合ったKPIを設定し、連携を促す: 
各部門がコントロール可能な指標をKPIとして設定しつつ、部門間の連携が促進されるような設計が求められます。

モニタリングと改善サイクルを回す: 
KPIは設定して終わりではありません。定期的に進捗を確認し、改善策を実行するPDCAサイクルを回し続けることが成功の鍵です。


その他に押さえておきたいSaaS関連KPI・用語集

これまで解説した主要なKPI以外にも、事業の特定フェーズや分析の切り口によって重要となる指標があります。

カテゴリ指標/用語概要とポイント                    
成長・将来性CMRR
(Committed MRR)
確約された月次経常収益。将来の売上達成精度を高めるのに役立ちます。
成長・将来性ACV
(Annual Contract Value)
年間契約金額。顧客が1年間に支払う金額の合計で、初期費用なども含みます。
成長・将来性MQL / SQL見込み顧客の質の指標。MQL (Marketing Qualified Lead)はマーケティング活動で創出された案件確度の高い見込み顧客、SQL (Sales Qualified Lead)は営業が選別した受注確度の高い見込み顧客を指します。
効率・財務Rule of 40
(40%ルール)
成長性と収益性のバランスを示す指標。「売上高成長率(%) + 営業利益率(%)」が40%以上であることが、健全なSaaS企業の一つの基準とされています。
効率・財務Burn Rate / RunwayBurn Rate(バーンレート)は1ヶ月あたりに消費するコスト、Runway(ランウェイ)は会社の資金が尽きるまでの猶予期間を示す指標です。
顧客エンゲージメントネガティブチャーン
(Negative Churn)
ネットレベニューチャーンレートがマイナスになる状態。解約による収益減を、既存顧客のアップセル等による収益増が上回っている健全な状態を指します。
顧客エンゲージメントTtV
(Time to Value)
顧客がサービスの価値を実感するまでの時間。この時間が短いほど、顧客満足度や継続利用率が高まる傾向にあります。
顧客エンゲージメントPMF
(Product-Market Fit)
提供しているサービスが市場のニーズに合致している状態。特にSaaSビジネスの立ち上げ期において重要なマイルストーンとなります。


複雑化するSaaSビジネスのKPI管理をシンプルにしませんか?

SaaSビジネスが成長するにつれて、顧客数や料金プランは多様化し、MRRやチャーンレート、LTVといった重要KPIの算出・管理はますます複雑になります。Excelやスプレッドシートでの手作業管理では、データの不整合や集計作業の属人化といった課題に直面し、迅速な経営判断の妨げとなることも少なくありません。

サブスクリプションビジネスの販売管理システム「Scalebase」は、そうした課題を解決します。「Scalebase」を導入することで、顧客・契約情報から売上・請求データまでを一元管理し、MRRやチャーンレート、LTVといった重要KPIをリアルタイムで正確に可視化することが可能です。

データに基づいた迅速な意思決定を支援し、貴社のSaaSビジネスの持続的な成長を加速させます。ご興味のある方は、ぜひ一度資料をご覧ください。



まとめ

変化の激しいSaaS市場で持続的に成長するためには、データに基づいた客観的なKPI管理が不可欠です。

本記事で解説した主要なKPIを正しく理解し、自社のビジネスの現状を正確に把握しましょう。そして、KPIツリーを活用して目標達成への道筋を組織全体で共有し、一丸となって取り組むことが、競合優位性を確立する上で重要となります。

設定したKPIは、一度きりのものではありません。事業環境の変化に対応しながら、継続的にモニタリングし、改善を繰り返すことで、SaaSビジネスを成功へと導くことができるのです。


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