2025.9.19
SaaSビジネスの成長を加速させる上で、プライシング(価格設定)は最も重要な経営戦略の一つです。優れたプロダクトも、料金モデルが市場や顧客ニーズと合致していなければ、LTV(顧客生涯価値)の最大化は望めません。
近年、従来の定額サブスクリプションモデルに加え、顧客が利用した分だけ料金を支払う「従量課金」モデルが、国内外のSaaS企業で急速に採用されています。このモデルは、顧客の成功と事業者の成功をダイレクトに結びつけ、競争優位性を築く強力な武器となり得ます。
本記事では、SaaS事業がプライシング戦略を最適化できるよう、従量課金モデルの基本からメリット・デメリット、成功に導くための具体的な料金モデルの種類、そして導入・移行のポイントまでを、戦略的視点から網羅的に解説します。
サブスクリプションをはじめとした、継続課金ビジネスを成長に導くポイントをまとめた「BtoB継続課金ビジネスを成功に導く販売・請求管理」も、あわせてご一読ください。
目次
SaaSにおける従量課金モデルとは?
SaaS事業者が従量課金モデルを導入する5つの戦略的メリット
従量課金モデル導入のデメリットと対処法
成功に導くSaaS従量課金モデルの種類とプライシング戦略
従量課金モデルの導入・移行を成功させるには?
複雑なSaaSプライシング戦略を支える「Scalebase」
SaaSの料金モデルを検討する上で、まずは従量課金の基本的な仕組みと、従来の定額課金との違いを明確に理解することが不可欠です。
従量課金モデルとは、サービスの利用量や頻度、成果などに応じて請求金額が変動する料金体系のことです。一般的に「使用量課金」や「Pay-as-you-go」とも呼ばれます。
課金の指標となるのは、APIコール数、データストレージ容量、処理されたトランザクション数、アクティブユーザー数など、サービスによって様々です。
課金モデル | 概要 | メリット(顧客側) | デメリット(顧客側) |
---|---|---|---|
従量課金モデル | 利用量に応じて料金が変動する | 使った分だけの支払いで無駄がない | 利用量が増えると高額になる可能性がある |
定額課金モデル | 利用量に関わらず料金が一定 | どれだけ使っても料金が変わらない安心感 | 利用が少ない月でも固定費が発生する |
近年、多くのSaaS企業が従量課金モデルへ移行、あるいは併用を進めています。その背景には、顧客ニーズの変化とビジネス環境の進化があります。
• 顧客ニーズの変化
消費者の価値観が「モノの所有」から、サービス利用を通じた「体験価値(コト消費)」へとシフトしています。顧客は、実際に受け取った価値に対して対価を支払う、公平で透明性の高い料金モデルを求めるようになっています。
• ビジネスモデルの進化
2008年の不況を機にサブスクリプションモデルが普及したように、昨今の経済状況下で、顧客が支出をコントロールしやすい柔軟な従量課金モデルが新たな標準になりつつあります。
• グローバルでの潮流
海外の調査では、SaaS企業の46%が何らかの形で従量課金モデルを採用しており、その割合は年々増加しています。特に、プロダクト主導で成長を目指すPLG(Product-Led Growth)戦略との親和性が高いことも、この流れを加速させています。
【参考記事】従量課金とは?メリット・デメリットから具体事例まで徹底解説
従量課金モデルは、単なる料金体系の一つではありません。LTVの向上や競争優位性の確保に直結する、極めて戦略的な経営判断です。
1. LTV(顧客生涯価値)とNRR(売上継続率)の向上
顧客の成功が自社の収益成長とダイレクトに連動する点が、従量課金モデル最大のメリットです。顧客のビジネスが成長し、サービスの利用量が増えれば、特別な営業活動(アップセル)なしで顧客単価が自然に上昇し、LTVが向上します。実際に、従量課金モデルを採用する企業は、NRR(売上継続率)がサブスクリプション企業より高い傾向にあるというデータもあります。
2. 新規顧客獲得の促進と導入ハードルの低減
「使った分だけ支払う」モデルは、顧客にとって初期投資を抑えて「スモールスタート」できるため、サービス導入の心理的ハードルを大幅に下げます。特に、まずは試してみたいと考えるエンドユーザー主導のボトムアップでの導入を促進する効果があります。
3. 解約率(チャーンレート)の抑制
定額制では、サービスを利用しない月でも固定費が発生するため、それが解約の引き金になりがちです。一方、従量課金モデルでは、利用しなければ料金は発生しない、あるいは低額に抑えられるため、顧客はサービスを解約する必要性を感じにくく、契約関係を維持しやすくなります。
4. 自然なアップセル機会の創出
顧客のサービス利用量がプランの上限を超過することは、絶好のアップセル機会となります。単純な超過料金の請求に留まらず、より上位のプランへの移行をスムーズに提案することで、顧客満足度を維持しながら顧客単価を向上させることが可能です。
5. 競争優位性の確立
料金の公平性・透明性は、顧客との信頼関係を構築する上で極めて重要です。顧客が自身の利用状況を把握し、コストをコントロールできる従量課金モデルは、顧客中心のアプローチを体現するものであり、競合他社との強力な差別化要因となり得ます。
多くのメリットがある一方で、従量課金モデルには事業者が認識すべきデメリットや課題も存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが成功の鍵となります。
デメリット・課題 | 対処法 |
---|---|
収益予測の難しさ 顧客の利用量に収益が左右されるため、売上が不安定になりがち | → ハイブリッドモデルの採用 定額の基本料金と従量課金を組み合わせることで、収益の安定化を図る |
顧客の利用控え コストを懸念し、顧客が必要なサービスの利用をためらう可能性がある | → バリューメトリクスの最適化と割引 顧客価値に直結する指標を選び、ボリュームディスカウントなどで利用を促進する |
想定外の高額請求 顧客が予期せぬ高額請求に驚き、顧客満足度が低下、解約に至るリスク | → 透明性の確保 利用状況のリアルタイムな可視化、上限設定、アラート通知機能などを提供する |
請求・契約管理業務の複雑化 顧客ごと、月ごとに請求額が変動するため、バックオフィス業務が煩雑化・属人化する | → 販売・請求管理システムの導入 複雑な料金計算や契約管理を自動化し、ミスを防ぎ、業務を効率化する |
特に「請求・契約管理業務の複雑化」は、多くの企業が見落としがちな重要課題です。Excelやスプレッドシートによる手動管理は、事業の成長とともに限界を迎え、請求ミスや機会損失といった深刻な問題を引き起こします。
従量課金モデルを成功させるには、自社のサービス価値を正確に反映したプライシング戦略が求められます。
「何に対して課金するのか?」という価値指標(バリューメトリクス、Value Metrics)の選定は、従量課金戦略の根幹をなす最も重要な要素です。この指標は、顧客がサービスから得る価値と直接的に連動している必要があります。
• バリューメトリクスの例:
◦ Slack: アクティブユーザー数(コラボレーションの活発さが価値)
◦ Snowflake: データ量、コンピュートリソース(データ活用の規模が価値)
◦ Stripe: トランザクション数(決済処理の成功が価値)
◦ HubSpot: 管理するコンタクト数(リード生成・管理能力が価値)
自社のプロダクトが顧客のどの課題を解決し、どのような成功をもたらすのかを深く理解し、それを最もよく表す指標を選ぶことが成功の鍵です。
バリューメトリクスを定めた上で、自社のビジネスモデルに最適な課金モデルを設計します。
課金モデルの種類 | 特徴と具体例 |
---|---|
使用量課金 | サービスの利用量(APIコール数、データ転送量など)に応じて課金する最も一般的なモデル。 例:AWS, OpenAI |
(アクティブ)ユーザー数課金 | 実際にサービスを利用したアクティブなユーザー数に応じて課金するモデル。利用実態に即しているため公平性が高い。 例:Slack, マネーフォワード クラウド経費 |
段階制(ティア)モデル | 利用量が増えるにつれて単価が変動するモデル。ボリュームディスカウントを提供し、ヘビーユーザーの利用を促進する。 例:Google Cloud, SendGrid |
超過従量課金モデル | 基本料金に一定の利用量を含み、それを超えた分に従量課金を適用するモデル。顧客に安心感を与えやすい。 例:携帯電話のデータプラン |
ハイブリッドモデル | 定額課金と従量課金を組み合わせたモデル。定額部分で安定収益を確保しつつ、従量部分でアップサイドを狙えるため、多くのSaaS企業が採用している。 |
既存の料金体系から従量課金モデルへ移行、あるいは新たに導入する際には、慎重な計画と実行が求められます。
1. 顧客との丁寧なコミュニケーション
料金体系の変更は、顧客にとって最も重要な情報の一つです。移行の背景やメリットを丁寧に説明し、透明性を確保することで、顧客の信頼を維持します。
2. 段階的な導入:
全顧客一斉に変更するのではなく、まずは新規顧客にのみ適用したり、一定期間は新旧プランを選択可能にしたりするなど、段階的に移行を進めることでリスクを低減できます。
3. バックオフィス体制の構築
従量課金モデルの複雑な契約・請求管理に対応できる業務フローとシステムの構築が不可欠です。手作業に依存した体制では、事業のスケールに対応できず、いずれ破綻します。
従量課金モデルへの移行や効果的な運用を成功させるためには、その複雑な料金計算と契約管理を正確かつ効率的に処理できるシステム基盤が不可欠です。「Scalebase」は、まさにその課題を解決するために設計された、サブスクリプションビジネスのための販売・請求管理システムです。
• 柔軟な料金モデルへの対応
定額、従量課金、段階制、日割り計算、オプションの組み合わせなど、SaaSビジネス特有のあらゆる複雑な料金モデルを標準機能で設定・自動計算できます。これにより、Excelなどでの煩雑な手作業管理から解放されます。
• 正確な契約・請求管理
顧客ごとの契約プラン、割引、キャンペーン適用、そしてアップセルやプラン変更といった契約の変更履歴を時系列で正確に一元管理。これにより、請求ミスを防ぎ、業務の属人化を解消します。
• データに基づいた迅速な意思決定
MRR/ARR、LTV、チャーンレートといった重要KPIをリアルタイムで可視化。正確なデータに基づいたプライシング戦略の見直しや、新たな料金プランの迅速な市場投入が可能になります。
多くの導入企業が、複雑な従量課金計算を自動化し、請求業務の工数を大幅に削減するとともに、事業成長に合わせた柔軟なプライシング戦略を実現しています。
SaaSビジネスにおいて、従量課金モデルは単なる課金方式の一つではなく、顧客価値と収益を直結させ、LTVを最大化するための強力な成長戦略です。
そのメリットを最大限に引き出すためには、
• 自社のサービス価値を的確に反映したバリューメトリクスを見つけること
• 収益の安定性と柔軟性を両立するハイブリッドモデルを検討すること
• そして、その複雑な運用を支える強力な販売・請求管理システムを導入すること
が不可欠です。
プライシング戦略は、顧客の成功と連動し、事業の成長を加速させるものになっているでしょうか。 「Scalebase」は、複雑化するSaaSの料金モデルに柔軟に対応し、データドリブンな経営判断を支援することで、貴社の持続的な成長のパートナーとなります。
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