2024.1.22

BtoBサブスク新規事業の成功確度を高めるプライシング・収益化戦略とは【イベントレポート】

近年、BtoB領域でサブスクリプションモデルを取り入れる企業が増えています。ビジネスモデルとしてのサブスクリプションは、企業側に安定的な収益をもたらし、顧客側にとっても利用障壁が下がるなどのメリットが注目されています。

今回のイベントレポートでは、アルプ共同創業者の山下氏のパートをまとめております。数多くのBtoBサブスク事業を見てきた経験を踏まえ、SaaS・サブスクビジネスで押さえておきたいプライシングの考え方や収益化戦略について解説ています。


目次
1.プライシングの全体像
2.事業戦略とプライシング戦略の関係性
3.プライシングで考えるべき3つの視点
4.プライシングにおける検討事項
5.見落としがちなポイント
6.Scalebaseのご紹介



登壇者紹介


山下 鎮寛(やました やすひろ)
アルプ株式会社・Co-Founder, BizDev

ヤフー株式会社を経て2017年にピクシブ株式会社に入社。ピクシブではサブスクリプションサービスのPdM/事業責任者を経てビジネス開発統括に従事。2018年8月にアルプ株式会社を共同創業。CS/PdM/POを経て現在はR&D及び新規事業を管掌。


1.プライシングの全体像

プライシングの全体像


(山下氏)まずプライシングの全体像について解説します。プライシングは「戦略」「実行」「組織能力・基盤」の3層構造であると考えています。何の目的のために、どのモデルを選択してプライシングを行うのかを決める「戦略」の階層は、思い付きやこういったプライシングをやりたいというような手段ありきではありません。前提となる事業自体の戦略と合致していることが重要です。

戦略が決まると、実際にいくらで製品を提供するのかという「実行」の階層に移ります。実行では定価だけでなくディスカウントなどについてのルール策定も行います。例えば、定価を月額1万円と決めたとしても現場の裁量だけで自由に値段を変えてしまっては、当初達成したかった目的を達成することができません。そのため、ディスカウントをどのような方針にするのか、どんなパターンを許容するのかを予め定めておく必要があります。

プライシングを決めたあとは、会社組織として運用するための「組織能力・基盤」という階層です。過去多くの企業がプライシングの改定をしてきましたが、チーム対応やオペレーション能力には大きな差がありました。顧客との余計な折衝、オペレーションやシステムの変更で、余分なコストがかかってしまったケースは枚挙にいとまがありません。

この3つの階層は非常に重要であるため、プライシングを定める際には必ず考慮しておきましょう。


プライシングの影響力

(山下氏)下記の図は以前、マッキンゼーの調査で明らかになった「各指標を1%変えたときにどれくらい営業利益向上に寄与したのか」を表しています。多くの事業運営者や経営者の方にとって、販売数量や固定費を1%改善するということの大変さは実感があるところだと思います。



各内容と比較しても、価格を1%変えることのインパクトは大きく、プライシングが非常に重要だと分かります。しかし、営業利益を向上するためにただ値上げをすればいいのかというと当然そういうわけではありません。

実際、代表的なBtoBサブスク事業であるSaaS事業では、「新規顧客獲得」以上に「1顧客当たりの収益」と「継続率」が大切だとされています。ただ値上げをしても継続率に影響が出るため、継続率を考慮したプライシング設計を行う必要があります。



2.事業戦略とプライシング戦略の関係性

事業戦略と合致したプライシング戦略とは


(山下氏)プライシングにおいて最も重要な部分は「戦略」です。 戦略はプライシングにおけるスタート地点であり、事業戦略と正しく合致しないプライシング戦略の場合、「実行」や「組織能力・基盤」のフェーズで挽回することができなくなってしまいます。



(山下氏)新市場での成長を事業戦略にする場合、まずは使ってもらうことが目標になると思います。そのため、 プライシング戦略としてはフリーミアムで一部から有料になっていく、もしくは月額500円などのシンプルで試しやすい価格を導入することが考えられます。逆に事業が拡大していてユーザーの使い方が多様になっているにもかかわらず、ずっとシンプルで試しやすい値段で提供している場合は、機会損失をしている可能性もあります。

ほかにも、ユーザーの利用拡大をまず狙うのであれば、Unlimitedモデルを選択することも考えられます。例えば、スマートフォンのキャリア契約等でよく使われているトラフィックが挙げられます。トラフィックを多く獲得することでトラフィックに対する課金だけではなく、更に多くのサービスを使ってもらい最終的に事業者側も得をするといったケースです。

逆に、マッチしていないケースでいうと、新規サービスのコンセプト検証を事業戦略として掲げているのに使用量課金やパッケージ製品で提供してしまうというケースがあります。製品コンセプトが市場に受け入れられるか否かを検証したいにもかかわらず、それを判断できない要因を作ってしまっています。


事業戦略とプライシング戦略がフィットした好例の紹介


(山下氏)事業戦略とプライシング戦略が合致しており、非常に良かった例として挙げられるのが、ZoomにおけるWeb会議ツール市場の開拓です。Zoomがサービスを提供した当初、Web会議ツールはいくつか存在していましたが、まだ普及しているとはいえない状況でした。そこでZoomは、新市場の開拓としてユーザーが使い始めやすいように簡単に試せるフリーミアムのプライシングを採用しています。



本来は使用料に応じてコストが変わる仕組みですが、使用量課金や時間課金ではなくユーザー単位かつ始めやすいような月々払いのプランの提供も行ってます。この施策で多くのユーザーが無料で使い始め、利便性や安定性が話題になりZoomは大きな存在感を示すようになりました。

もしこれが最初から使用量課金の提供や提供都合だけの年払いのみであったとすると、ここまでユーザーが増えてはいないと思います。提供側としては大口の契約やキャッシュフローが安定する年払い、コストに応じた使用量課金をやりたくなるのは当然ですが、事業戦略と合致させていかにサービスを広げていくのかまで考えられたZoomは成功事例として挙げられるでしょう。


3.プライシングで考えるべき3つの視点


(山下氏)事業戦略を定めプライシング戦略も決めたら、いよいよ実行について考えていきます。実行に移す際、3つの視点で価格を考えてみることをおすすめします。



顧客への提供価値におけるプライシング

(山下氏)1つ目は「顧客への提供価値におけるプライシング」です。これは、販売パートナーを含めた購入に対する意思決定について、どこまで因数分解できているのか、解像度を高くできているのかという視点です。

顧客への提供価値は具体的にどんなものであり、なぜ顧客は買い、どんな人が買うのかを考えることで、プライシングを見つめ直すことができます。


競合戦略としてのプライシング

(山下氏)2つ目は「競合戦略としてのプライシング」です。多くの事業において全く競合がいないというケースは少なく、潜在的な競合が存在するケースもあります。例えば、SaaS企業にとってExcelやGoogleスプレッドシートは潜在的な競合になりえるのではないでしょうか。

競合他社製品にどのようなサービスがあるのか?導入した場合の価格差はどれくらいか?顧客が自社製品を買わなかった場合の「次のベストな選択肢」とは何か?などを考えていきます。その中で競合のプライシングと差別化を図る必要があります。

また、自社都合だけでなくマーケットの中でどの位置にいるのか?圧倒的な1位としてサブスクサービスを提供するのか?既に名の知れた競合がいる中で戦っていくのか?のようなところによっても価格の金額を決めていく必要があります。


自社の経済性のためのプライシング

(山下氏)3つ目は「自社の経済性のためのプライシング」です。コストや売上目標が自社の経済性に該当するかどうかを確認する内容で、事業計画を達成するためには避けては通れません。

具体的には、 顧客の現在および潜在的な生涯価値(LTV)はどれ程か?サービス提供側のコスト効果はどういったものなのか?実際のネット価格はいくらなのか? という様に自社の経済性を分析します。ここまでお伝えしたように顧客、競合、経済性の3つの視点をもって価格を決めていく必要があります。


4.プライシングにおける検討事項


(山下氏)ここまでお話した3つの視点を前提に、具体的な価格をどう決めていくのか?このパートでは、価格決めに関する検討事項を洗い出しました。私がプライシングの相談を受けた際、上記の事項をクライアントには必ず検討してもらいます。そして提供する事業や会社の方針と合わせて具体的な数字に落とし込むことが重要です。



価格体系の設計

(山下氏)まずは価格体系の設計です。ここでは、どんな単位で課金するのか、どのような提供価値に対して課金を行うのかという内容です。分かりやすい例でいうと、カミソリの替刃やプリンターのインクビジネスと呼ばれるようなものは、本体ではなく実際に使われた量に応じて課金されています。

提供価値と最も近いところで課金するためにハードルを下げるビジネスは多く存在しています。ここで重要なのは、顧客が何に対して価値を感じており、どのような支払い方法がもっとも行いやすいかの理解を深めることです。


価格水準の設計

(山下氏)価格体系のあと、実際の価格水準を決める必要があります。価格水準の中でも、上記3つの視点は非常に重要です。顧客にはどれくらいの支払意欲があるのかか?競合との価格差をどう作るのか?作らないということはどういう戦略なのか?そしてコストに対してマージンをどれくらい載せられるのかです。

これらはビジネスモデルによって重要度が変わります。SaaSであれば利益水準よりも顧客価値や競合が重要ですし、原価率の高いビジネスであれば利益水準の優先度が高くなります。自社が提供するビジネスにおいて、それぞれの重要度を見極めて価格水準を定めていきましょう。


戦略的な価格差設計

(山下氏)価格水準を定めたからといって、全ての顧客に対して同一価格で提供すべきではありません。事業戦略上、顧客が得るメリットで差をつけたり、シェア拡大のためにチャネルに応じた価格を定めることが重要です。


ディスカント管理

(山下氏)多くのBtoBサブスク事業においてディスカウントは避けられない要件です。ただ、自由にディスカウントを行うのではなく、どういった条件下においてディスカウントを実施するのか?ディスカウントにガバナンスを効かせるためのルールは予め決めておく必要があります。


5.見落としがちなポイント


(山下氏)ここまでのパートでお話した内容は「プライシング」と呼ばれる領域だと思いますが、ここからお話するのは非常に重要であるにも関わらず多くの企業がプライシング戦略を考える際に見落としがちなポイントです。それは、最初にも触れさせていただいた「組織能力と基盤」についてです。

例えば、新規事業を展開する際、商品の構造や価格が日々変化すると思います。そして例えば、事業が拡大しエンタープライズを攻略するフェーズになった時、事業戦略をアップデートすると同時にプライシングモデルも新しくするはずです。プライシングでは、単純な値上げ・値下げだけではなく、こうしたフェーズの変化に対応し、検証のPDCAサイクルをまわすことが求められます。

プライシングを変える際に考慮したいことは、オペレーションも必ず変化するということです。例えば、単価を上げる場合には商品マスタが増えますし、料金モデルを変える場合は計算要素が必要になります。顧客の状況や支払い方法が変わった際に経理部の方々が全て対応できるとは限りません。年間一括払いであれば、前受金の取り崩しが必要になり、会計の仕分けを作るロジックも変わります。



6.Scalebaseのご紹介


(山下氏)事業拡大に向けてプライシングを見直すには最適なシステム導入が必要です。プライシングの「戦略」「実行」「組織能力・基盤」の3層構造を考える際に欠かせないのがサブスクリプション事業に特化した販売・請求管理システム「Scalebase」です。

「Scalebase」は顧客情報や商談の情報などをデータとして取り入れ、請求書を自動で発行したり会計のデータを作ることができるサービスです。プライシングの実践において今までだとシステムを作り直す必要があったり、オペレーションの変更が必要でプライシングを変えづらかったと思います。そこで「Scalebase」を使えば事前にプライシング戦略の設定を用意しているので、プライシングの変更や新規サービスの設定がスムーズに行えます。

また、プライシングの変更に伴う複雑な商品マスタ管理や契約履歴の管理・把握などにも「Scalebase」は対応しており、商品マスタの一元管理や毎月の請求金額の計算、プラン改定時の管理における課題を解消します。



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