2024.1.22
スタートアップ企業は、バックオフィス業務を単純作業として大まかな管理から始めることが多いですが、その場合、成長後にプロセスを整備することが難しく、結果としてリソースを浪費する可能性があります。そのため、組織フェーズが成熟していない段階からスケール後にも耐えうるバックオフィス体制を構築することが重要です。
今回のイベントでは、アルプ株式会社の堀氏とメリービズ株式会社の長谷氏が、スタートアップ企業がバックオフィス業務を構築するためのシステム導入やプロセス改善のポイントについて解説しました。
目次
業務フロー改善を進めるきっかけは?
1人目のコーポレート担当として行った業務改善施策
その1)マニュアルの整備
その2)情報の集約と一元化
その3)支払い管理表の具体的な施策
業務フロー改善の成果について
改善で意識していたポイント
まとめ
堀 貴裕(ほり たかひろ)
アルプ株式会社・執行役員VP of Corporate
新卒で監査法人に入社し、会計監査および内部統制監査に従事。2020年には株式会社メドレーに入社して、経理業務およびJ-SOX業務に携わる。21年にアルプ株式会社に入社し、現在は経理労務総務などのコーポレート部門の責任者を務める。
アルプ株式会社では販売・請求管理システム「Scalebase」の開発・運営を行っています。商材の料金形態と顧客情報を登録いただくことによって請求データを自由に設計できるところが「Scalebase」の強みです。また、請求管理だけに留まらず売上計上まで幅広くサポートしています。
長谷 龍一(はせ りょういち)
メリービズ株式会社・ビジネスディベロップメントチーム
メリービズ株式会社では2つのサービスを提供してます。まずは、オンラインの経理アウトソーシングサービスの「バーチャル経理アシスタント」です。人材を採用せずに経理のプロが経理業務を代行するサービスです。次に経理DXコンサルティング「メリービズ経理DX」です。クラウド会計導入から業務プロセスの変革まで、経理DX支援はもちろん法改正対応やIPO支援も対応しています。経理の方のお悩みの中でアウトソーシングでは解決できなかったものは全て解決しています。
(長谷氏)業務フロー改善の進め方について説明します。業務フローの改善にあたって、最初に業務の「見える化」をして、その中で課題の検討と解決を行います。見える化、課題検討、課題解決の手順を踏まないと手戻りが発生するのでこの手順は意識しましょう。
次に、業務を改善するきっかけに話を移します。きっかけについては、大きく分けると2つあると思います。1つ目は負債の解消、2つ目はBCP(事業継続計画)対策です。負債の解消に関して、私も以前経理をやっており、どんどんタスクが溜まっていくことで、うまくいかないなと思う時が結構ありました。 そしてBCP(事業継続計画)対策のところでは、担当者の離職や退職といった形で直面するのがよくお聞きするケースです。その際、業務フローが綺麗であれば非常に取り組みやすいですし、新しい担当者を採用する際に業務フローがきれいになっている方がスムーズに引き継ぐことができると思います。
こうしたきっかけがある中で、問題はいつやるべきかというところです。ここは2つあると考えており、定期的に見直す方法と、臨時的に見直す方法です。定期的な方法は、例えばコーポレート定例のようなミーティングの中で対処していく方法です。定期的に見直すことができれば本当に大変な時にスムーズに業務を行うことができるのでお勧めしています。ただ実際には、臨時的な見直しのケースが多いと思っています。法改正などの外圧や、人が増えた・人が減ったようなところでやらざるを得ないことが多いと思います。
(長谷氏)堀さんはアルプでどのように業務フローの改善に向き合ってきたのでしょうか?
(堀氏)アルプに入社したときの状況を一言で表すとカオスという言葉がピッタリでした。例えば、Slackを主体としたコミュニケーションを行っていますが、開発部門のチャンネルからは新たにシステムのアカウントを追加してほしいですとか、営業部門のチャンネルからはこれを業務で使いたいので買ってほしいみたいな依頼が様々なところから来ていて、その情報が混在している状況でした。このままでは業務が滞ってしまうという実感があったので、すぐ業務フローの改善に着手をしました。先ほど長谷さんがご説明された臨時的な見直しに該当すると思います。
その時に心がけたこととしては3つあります。1つ目がマニュアルの整備、2つ目が情報の集約と一元化、3つ目がシステムによる自動化です。
(堀氏)マニュアルの整備は、Notion上に各業務の説明を残していきました。以下の画像はアルプのコーポレート部門のマニュアル一覧です。入社した時はまっさらな状態でしたが、常日頃から意識してマニュアル化を進めることによって情報をストック整理することができました。
綺麗にまとめる必要はなく、もし自分がいなかったとしてもここを見れば業務を止めることなく進められるというように情報を整理するのが大事だと考えています。
(長谷氏)この時は堀さんお一人だったんですか?それとも複数名のチームのメンバーがいてその方に伝えるために綺麗にしたっていうような形ですか?
(堀氏)取り掛かり始めたころはまだ1人コーポレートでしたので、将来の組織拡大を見据えてこの時から情報をストックしていました。
(堀氏)そして次に取り組んだことは、情報の集約と一元化です。先ほど色々なチャンネルから購買やアカウント発行の依頼がきて大変だというお話をしましたが、人数が少ないうちは都度都度対応することによって業務を回せると思います。
一方で、一定のボリュームを超えてきてしまうと対応が困難になります。そのため、コーポレート部門傘下にapprovalというタイトルのチャンネルを作成して、契約稟議であればcorp-approval-contract、購買稟議であればcorp-approval-purchace、アカウント発行であればcorp-approval-itaccountとそれぞれ専門チャンネルを設けることによって情報の集約を実現しました。同時に、Slackのワークフロー機能を利用して申請フォーマットを作成することで必要な情報を一度に集約し、確認作業を複数回行わないようにしました。情報の集約と一元化によって申請者も決裁者もスムーズに対応ができるようにしています。
請求書の集約に関してもこのタイミングで実施しました。やっと決算を締めたと思っても請求書の提出を忘れてましたという連絡を受けることがあると思います。一度、決算数字を締めた後に手戻りがあると大変だと思いますで、請求書については必ず指定のルートで提出してもらうようにルールの徹底と運用の徹底を図りました。
(堀氏)経理のみなさんは支払いの請求書を受領してから支払い処理を行うにあたり、エクセル・スプレッドシート等を用いて支払管理表を作成しているケースがよくあると思います。
しかし実際には、支払い処理の後に資金繰表を作成したり、翌月初に源泉税の納税を行うなど、後工程がたくさんあると思います。そしてそれぞれのタイミングで異なる管理表を作成するのはかなり手間がかかると思います。そこでアルプでは1つの支払管理表で複数のオペレーションが対応できるように5つの工夫を行っております。
1つ目が支払いの確認です。支払済みなのか、もしくは未払なのかを管理する項目を設けることによって支払い漏れを防いでいます。
2つ目が資金繰り表の作成です。支払済ステータスのものをフィルタで抽出し、資金繰り表にコピペできるようにしています。その時に、この支払管理表と銀行APIで取得した入出金明細を組み合わせることによって、資金繰り表が更新できるような仕組みになっています。
3つ目が源泉税対応です。請求書を受領してからその中で源泉を差し引いてお支払いをするものもあるかと思います。この場合、月初に源泉税の納付が必要になりますので、請求書を受領したタイミングでいくら源泉税が発生しているのかを記録することで、翌月に再度全ての請求書を開き直して確認するというような工程が発生しないように工夫をしています。
4つ目は会計計上月項目の設置です。対象の支払いが何月の費用なのか、もしくは何月の前払費用になるのか、計上すべきタイミングを分かるようにしています。
5つ目は未払フラグです。これによって請求書を受領したがまだ支払いを行っていない、費用計上すべきものがないかの観点をカバーしています。 これによってB/Sに未払金が計上されているのかこちらの支払い管理票と確認し合うことによってその漏れを防いでいます。
(長谷氏) 1枚の管理表で5つのオペレーションを対応していますが、これをやろうと思った時に最初から全体像を描かれていたのか、それともやりながら必要だなと感じて追加していったのか、どちらでしょうか?
(堀氏)4つに関しては初めから全体像を描いていました。未払いフラグに関してのみ、当初は行う予定がありませんでした。ただ、年度決算締めの際に未払の計上漏れが発覚した経緯もあり、この管理表でチェックを行うことで手戻りなく対応できると考え項目を追加しました。
(長谷氏)業務フローを改善した後の成果をどのように測るかについて深堀りしたいと思います。よく経理担当の方からは、業務フローを改善した効果検証をどのように行っているかという質問をいただきます。
ここでよくある例として2つご紹介します。まずはマイナスをゼロにというところと、投資対効果をしっかり見ることです。現状に課題感がありそれをどうにかしなければいけない、いわばマイナスをゼロにしなければいけないといったときは、効果検証はそこまでされる印象はないと思います。現状が楽になり業務がスムーズに行っている、といったところでもう目的は達成されたとみなされることが多いからです。
一方で、業務フローを改善するにあたって多くの人を巻き込み、あるいは費用を投下したときは、人月計算や費用計算、工数計算をしながら投資対効果をしっかりとはじき出すことが必要になると思います。
(長谷氏)アルプさんの場合はどうでしょうか?
(堀氏)まずはマイナスからゼロというところで対応していたので、この投資対効果というところはあまり意識できていなかったです。しかし、効果だけを見れば、売上プロセスに関して人手を介さないほぼ自動化のオペレーションを構築することができ、結従来半日ほどかかっていた作業が1時間以内に完結できるようになりました。
具体的に売上プロセスのビフォーとアフターについて説明します。
ビフォーは、売上プロセスは自社サービスの「Scalebase」と外部サービスを連携させたオペレーションを取っていました。しかし私が入社したタイミングではところどころ連携がとれてない箇所があったので、手作業で補っているという状況でした。売上計上に関する仕訳データも無かったので、クラウド請求書発行サービスからCSVデータをエクスポートし、手作業で無理くり加工して売上計上用の仕訳データを作成したりしていました。これをさらにクラウド会計の方にインポートすることによって売上データを計上していました。
次にアフターのフローになりますが、ここで私が力を入れたポイントは2つあります。1つ目がクラウド請求発行サービスとクラウド会計システムのAPI連携。2つ目が「Scalebase」から売上計上用の仕訳データのエクスポートです。
請求発行時は、「Scalebase」から請求データをクラウド請求発行サービスに流して請求発行を行っています。このタイミングで請求発行を行うと同時に売掛金と前受収益の仕訳が自動で登録できるようになっています。次に収益認識時のフローです。実は「Scalebase」の開発責任者もわたしと同じ公認会計士資格を有しているため、収益認識基準を意識した形で売上の仕訳データを「Scalebase」からエクスポートできるように開発要望を出し、機能として開発してもらいました。これによって今まで手作業で作成していた仕訳データを「Scalebase」で自動集計し、エクスポートしたものを会計ソフトにインポートするだけで済むようになりました。前受収益を倒して売上高を計上する仕訳となっております。また、最後に、銀行口座と会計システムをAPIで繋ぐことによって入金消込仕訳を簡単に登録できるようにフローを変更しました。
以上が「Scalebase」の売上フローに関するビフォーアフターの改善です。
(長谷氏)どういったところを意識して改善に取り組んでいたのでしょうか?
(堀氏)2点あげるとすると、こういうフローにしたいというゴールから逆算して業務フローを考えたところ、そして、API連携やシステムを最大限に利用することで、データのシームレスに連携を実現できたところだと思います。しかも、これによって手作業を極力排除するフローになりミス自体の低減にもつながって一石二鳥の改善になりました。システム連携による自動化、そして「Scalebase」というプロダクトの成長が大きく作用したと思います。
下の画像は、私が月初一営業日でやっているタスクの一覧です。フローをきれいにすることによって自分がほかの作業に費やせる時間も生み出すことができ、結果としていろんなことができるようになりました。
(長谷氏)ありがとうございます。最初はマイナスを0にする部分が大きかった印象でしたが、お話を聞いていくと膨大なタスクがたった1営業日で完了する成果に繋がったということですね。
(堀氏)はい、そうですね。そしてこちらが整備した現在のバックオフィス業務フロー図になります。 本日は経理部分をメインにお話しましたが、それ以外にも私が担当している領域においては情報の集約一元化というポイントとシステムの利用ポイントを最大限活用することによって、シンプルでわかりやすい業務オペレーションの構築をしています。
(長谷)私の方から本日のまとめについてお話します。
1つ目は、全体の青写真、つまり全体像を描くこと。およそ8割程を描いていきながらそのまま進めていくと、思い通りにいき結果的に効率化していきます。この青写真を描くことが最初に大事になってくるポイントだと思います。
2つ目は、動機・時期を明確にすること。堀さんの場合は非常に明確な動機である時期がありましたが、そうでない場合についてもこの2つをしっかりと意識することができれば社内外の力を結集できると思います。
3つ目は、システムの力をしっかりと確認して100パーセント引き出すことです。
以上が本セミナーのまとめとなります。
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